第2話 心愛とココア
…僕を好きだと言ってくれている女の子の薬指には僕の知らない指輪がはまっていました。
「えっと…、ココアでいいか?」
「え、まだそのネタ引っ張る?」
昔言ったことのある冗談を言うと、クスクスと心愛は笑った。心なしか、彼女の周りにピンク色の花が見えるようだ。このネタが伝わるということはやはり、偽物とかでは無いみたいだな…。
心愛をテーブルの前の椅子に座らせると、僕はココアを作ることにする。最近は機械が進化してきたから、ボタン一つで出来上がるのだ。
「サトウハ、ドレクライ、イレマスカ?」
「んー、多めで。」
「カシコマリマシタ。」
ピピーっという音を立ててドリンクサーバーはあっという間にココアを作ってしまった。最初は違和感もあったが、この人工知能搭載の機械というものは家族の一員のようなものだ。カップから湯気がたち、ふわふわと揺れて消えていった。
「心愛、はい。」
「あ、類ありがと!」
懐かしいなぁ、と呟きながら心愛はココアを口にする。心愛には、甘いものを食べると口元がニヤける癖がある。かわいい。そんな姿を見ていたいから、僕は心愛の目の前の席に座る。
僕も注いできたコーヒーを口に含む。熱すぎてあまり味がしなかった。あのドリンクサーバーは僕に恨みでもあるのだろうか。
「あれ、類それコーヒー?」
匂いでもしたのだろうか?心愛は僕のカップを覗き込んだ。近い。
「ああ、大人の僕はブラックコーヒーを飲めるんだ。」
照れてしまったのを隠すためにちょっと得意げに僕は笑って見せた。なのに、心愛の反応は微妙である。
「でも類コーヒー飲めなかったじゃん?」
「…え、そうだっけ?」
思わず意表をつかれる。確か、僕はずっと前からコーヒー飲んでたけど。
「だって類、中学校の頃おんなじこと言ってブラックコーヒー飲んで、眉間に皺寄せてたじゃん。」
「あー、…忘れてくれ。僕はカッコいい大人になったんだよ。」
忘れていたことが気まずくて冗談めかしてそう言った。そういえばそうだったかもしれないな、と思う。ぼんやりとした記憶が取り留めもなく宙に浮く。
「…昔だってカッコよかったのに。」
ボソッと心愛は呟くと、ハッとしたように慌ててココアを飲み干した。ココアが熱かったのか、頬が赤くなっている。
…まあ、聞き逃さなかったんですけどね。心愛がかわいい。
「そ、そうだ!私類に聞きたいことがあるの!」
心愛は誤魔化すのが下手だ。大きな声を急に出して立ち上がった。話題を今すぐにでも変えたかったのだろう。
それにしても心愛、僕たち気が合うな。僕もちょうどさっきからずっと気になって仕方がないことがあるんだ。僕は心愛のぎゅっと握りしめた拳に光る指輪を見てそう思う。
…それ、誰から貰ったの?
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