オーク王の黒奥さん〜全肯定王様は不吉な私を“ちゅき”だという。ならば私は、白を、世界を“ちゅき”になる〜

冥沈導

第1章 “ちゅき”って……、素敵だな。

第1話 ……何でー!?

「我が家は終わりだぁ!」



 私が産まれた時、家族はそう叫んだらしい。



 髪と瞳が黒かった、それだけ。



 癒しの力はなかった、それだけ。



 黒は、災いを呼ぶとされていた。



 それだけ。




 たったの、それだけ。




●●●




「それだけで、売り飛ばすって、酷すぎるよー……。しかも、奴隷としてなんて」


 私は見窄みすぼらしい格好で歩いていた。ボロボロの汚れた布服一枚で。もちろん、下着は着けていない。奴隷だから。


「何、奴隷だからボロ服って、しかも、下着なしって。そんなの性奴隷確定じゃんかーっ……」


 私はトボトボ歩きボロボロ泣いた。



 この世界の聖女サンは、その名の通り聖なる力を持つ少女の事だ。

 聖なる力で、癒しの力で怪我や病を治す。この世界では、ある意味、神様より尊いとされている。


 そして、聖女サンは大体、雪のように綺麗な白髪か輝くように美しい金色。瞳は宝石のように美しい青。


 姉も典型的な聖女サンの特徴を持って生まれ、そして、聖なる力も群を抜いてすごかった。


 両親は、次もこんな子が生まれると、夜の営みを頑張った。でも、生まれたのは真っ黒な私だった。


 絶望したと、両親は言っていた。私の方が絶望したよ! と思ったけれど、この歳までそれでも育ててくれた。


 だから、怖いけれど、これからオークの王様の所に行きます。奴隷として。


「確か、この辺だったと思うけど……」


 荒地でエルフと戦ってるオークが野営しているって聞いたんだけど。……いた。


 焚き火を囲んでいる、緑色の肌に豚のような鼻、口から出ている下からの牙。周りは斧や鐵棍てっこんなどの武器がたくさん置かれてある。


 ……ひいぃ、怖いよー。


 あうあー、一人が私に気づき近づいてきたー!


「お前! 聖女サンか!」


「はひぃっ、聖女サンですぅー」


「でも黒じゃねーか!」


「何だ黒かよ!」


「王が金をしこたま出したのに!」


「しかも髪型ダセー!」


「欲情すらしねぇ!」


「…………」


 次々と文句を言われ、歓迎されてないみたい。

 うわぁーん! 帰りたいよー! でも、帰る場所ないよー!


「あ、あの……。聖女サンをお求めということは、何かお困りですか?」


「王がエルフにやられたんだ!」


「エルフに?」


「呪いみてぇのをかけられた!」


「だから、癒してほしかったのに!」


「い、一応、見せていただいても、よろしいでしょうか」


「少しは役に立てんのか!?」


「ひいぃー、わかりませーん! 見てみないとー!」


「じゃあ試しに見ろ! 治せなかったら殺す!」


「ひえぇー……」


 それってもう、死ぬ確定ですよねー? と思いつつ、焚き火の奥に行くと。体が大きく背も高い半裸のオークさんがうなされていた。白い布を顔にかけられて。


「……もうお亡くなりに?」


「生きてる! 殺すぞ!」


「すいませーん!」


 何でもかんでも殺すと言わないでくださーい! 迫力あって怖いんですー!


「女や子供、そうじゃなくても、人間やエルフたちは、オレたちの顔を見ると怖がるだろ! だから、隠してんだ!」


「はひぃー! すいませんー!」


「で!? どうだ!? 治せるのか!?」


「これは……、治せません」


「何だとー!?」


 だってこれは、呪詛だ。王様の体中に気持ち悪い模様が、蚯蚓ミミズのような黒い模様がある。だからこれは、治そうとすると余計に悪化してしまう。だから、治しちゃダメだ、根本から、んだ。


「やっぱり白聖女サン・ネージュを買えばよかったのかー!」


「いいえ」


 これは、お姉ちゃんでは、治せない。だって、白聖女サン・ネージュは癒しの力に長けているけど、呪詛を返したり解いたりはできない。


 黒聖女サン・ノワールの私にしかできない。


「王様が元通りになれば、解放してくれますか?」


「王が高い金払ったが仕方ねー! 黒なんかいらねーからな! 解放してやるよ!」


「はひぃー、ありがとうございますー。では」


 王様の体に両手をかざした。


「黒も生、刻め生まれしものよ。我の糧とならん。共に生きようヴィーヴル・アミーチェ


 王様の体にあった呪いが浮かび上がり、私の体に吸い込まれていった。体が一気に重くなり、脂汗が出た。でも、少し目を瞑り、深呼吸を繰り返すと落ち着いた。


 そう、私は体に呪いを事ができる、特殊な体質なんだ。


「あ! 王!」


 王様ががばっと起き上がり、白い布が顔から落ちた。あ、豚さんみたいな顔じゃない、肌は赤に近い肌色だけど、人間っぽい顔立ちだ。……かっこいい。って、ダメダメ! これで、解放されるんだから! ……帰る場所、ないけれど。


「あのー……、これで、帰っていいですよね?」


「おー! 帰——」


「いや、ダメだ」


 王様の声、初めて聞いた。でも、何でー!?


「お前は奴隷ではなく、俺の妻にする。だから、帰さん」


「……何でー!?」


「お前をちゅきになったからだ!」


「もっと何でー!?」




●●●●



 あとがき。


 どうぞ、笑ってください(笑)


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