第二章 蝿!!!

ストーカー

朝。陸海空は家族と食卓を囲んで朝食をとっていた。テーブル脇に配置されたテレビではワイドショーが放送されている。

「続いてのニュースです。昨日、○○市に突如出現し、周囲を巻き込みながら争いを繰り広げた二体の変異者の映像が公開されました。こちらをご覧ください」

アナウンサーの女性が物々しい表情でそう言うと、画面が切り替わりテレビに二体の怪物が争っている様を遠写した、緊迫感溢れる映像が映し出された。

一体の怪物が口から火球を発射すると、もう一体がそれを弾き返していた。

また映像がスタジオの方に切り替わると、いけすかない感じのMCタレントがわざとらしく眉を潜めながら口を開いた。

「いやー恐ろしいですね。この知性の欠片も感じさせない、醜悪で獰猛な姿…」

突然、チャンネルが切り替わると、その番組でも先程の映像が流れていた。

「まったく、どこもかしこもこの話題ばっかだな」

父はそっとリモコンをテーブルに戻した。横に座っている母が言った。

「最近、変異者が多くてやんなっちゃう。私。怖いナァ」

「大丈夫だって母さん」

父が母の手を握ると、言った。

「何があっても俺が守ってやるって~。ホラ、初めてのデートの日にバカな不良に絡まれただろ?あん時みたいにさぁ」

「もう父さんったら、そんな昔の話…♡」

「あの日は最高だったよ…。夜とか夜とか夜とか…♡」

二人は年甲斐もなく、付き合いたてでアツアツのカップルのように、うっとりと見つめあった。陸海は箸を口に運びながら呆れた顔で呟いた。

「まーた始まったよ…。あ、ちょっとそこの醤油取ってくんない?」

陸海は横に腰かけている妹に声をかけた。妹は返事もせずに、お高くとまった様子で携帯をいじっている。

「もすもすー、聞こえてますー?」

陸海は妹の肩を指で小突いた。すると妹は陸海をキッと睨みつけた。

「何!?触んないでよ、キモい」

「お、お前…!兄貴に向かってキモいはないだろ、泣くぞコラ!」

「あっそ、じゃあ私学校行くから、ごちそうさま」

妹は陸海を軽く一蹴すると、朝食をほとんど残したまま、椅子から立ち上がり玄関へと向かって行った。

「いや、醤油…」

「自分で取りなよ」

陸海は仕方なく腕を伸ばして醤油を掴むと、テレビを一瞥した。

まったく気づかなかったが、撮られちまってたか…。幸い、正体がバレてはいねーようだが、後でアイツにまたメンドクセー事言われるかもな…。それはそれとしてコイツら、『アレ』が俺だって知ったらどう思うかな…。

陸海はさりげなく両親の方を見た。

「今度旅行行こうか、二人だけで…♡」

「ホント?嬉しい♡」

「まだやってるし…」

陸海はうんざりしながら目玉焼きに醤油をかけた。



陸海天は玄関を出ると、日課のように周囲を見渡した。しばらくの間そうした後、彼女は怪訝そうな顔で独り言ちた。

「…なーんか、視線感じるなぁ」

そう呟くと、釈然としないまま天は学校へと歩き出した。



「あっ危ねェ~~!気づかれるところだったァ~!で、でもこのスリルがタマんねェ~!ウヒュヒュヒュ!」

天の家の向かいにあるマンションの一室の窓から、ぼさぼさの長髪で眼鏡をかけた痩せぎすの中年男が、鼻の穴と股間を膨らませながら双眼鏡で彼女を覗いていた。背後の壁には黒のロングヘアの少女…そう、天の写真が所狭しと貼り付けてあった。当然、全て彼が盗撮したものである。早い話、彼はストーカーだった。そしてもちろん変態だった。

「くゥ~ッ!今日も相変わらずキレイだなァ~天ちゃん!このボロマンションに引っ越して来てよかったァ~!いやホントとんだ幸運だよ。もし君に近づく男がいたら…誰であろうと殺す!絶対になァ~!」

男は一人そう固く決心して、見えなくなるまで彼女を舐めるように眺め続けた。

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