コンビニ
持ち前の無神経さで薄井の不興を買った陸海は1人、帰路についていた。コンビニを横切った瞬間、彼は不意に足を止めた。
「あ、そういや今日アダルト○ャンプ発売日じゃん。立ち読みしてきたろ~…」
そう言うと、陸海はUターンしてコンビニに入店した。
店内に入るや否や帽子を目深に被った暗い顔の、早くも人生に絶望してそうな若い店員が、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で「…しゃいませー」と呟いた。
店内はガラガラだった。陸海は入り口から向かって右側の、窓際にある雑誌コーナーへと向かうと、目当てである漫画雑誌を手に取った。
「さーて、金欠だしここで全部読んじまうか…」
するとまた一人、ドアを乱暴に開けて客が来店してきた。30代前半位の、顎髭を生やしたガラも頭も悪そうな長身の男だった。作業着を着ていることから、多分トラックのドライバーか何かだろう、と陸海は思った。
男はまっすぐレジへ向かうなり、無駄に高圧的に言った。
「35番一つ」
「…あーすいません、今それ在庫切らしてるんで」
暗い顔の店員は蚊の鳴くような声で答えた。
「んだよ、使えねーなー」
「…チッ」
「…あ゛ぁ!?」
陸海は横目でレジの様子を伺った。なにやらただならぬ雰囲気である。揉め事のようだ。
「オイ!今テメー舌打ちしたか?舌打ちしたよなテメー」
怒髪天の形相で喚く男に対し、店員はニヒルな笑いを浮かべながら言った。
「…チッ、いや別に…」
「あっ!また!また舌打ちした!」
なーに下らねー事で争ってんだコイツら、どうでもいいけど早く終わってくんねーかな…。
陸海が居心地悪そうにしていると、おもむろに店員が帽子を脱ぎ出した。
「うるせぇんだよ、ゴチャゴチャゴチャゴチャと…」
その言葉とともに、店員の上半身が変異を始めた。額に二本の角が生え、口が耳まで裂けた。口腔からは無数の鋭利な牙が顔を覗かせた。肉体の膨張により制服がビリビリと破れ、深紅の鱗に覆われた肉体が露わになった。
その姿は、神話に登場する生物、ドラゴンを彷彿とさせた。
「あが…が…」
男はあまりの出来事に、鼻水を出しながら魚のように口をパクパクさせるのが関の山だった。
「ちょっと死んどけ、お前」
変異した店員は大口を開け、男の頭部を食いちぎった。首を失った男は、血を撒き散らしてバタリと仰向けに倒れ込んだ。
「マジ…か…!」
陸海が呆気にとられていると、変異者と眼が合った。
「おいお前…立ち読みしてんじゃねェーよ」
「ギクッ」
変異者の口内が淡く発光し始めた。陸海は顔を引き攣らせた。
「あ、ヤバげな感じ…」
「立ち読みはァ~…死刑~!」
変異者の口から火球が放たれた。
コンビニのショーウィンドウをぶち破って、駐車場に陸海は倒れ込んだ。その姿は昨夜と同じ、蛾の怪物へと変貌していた。体についた火をゴロゴロと転がって消すと、彼は言った。
「アイタタ…危ないところだったぜ。ギリギリだったが、自分の意思で変身出来たみたいだな」
背後で甲高い悲鳴が聞こえた。振り返ると一人のハイヒールの女性が、何度かこけそうになりながら背を向けて逃げていく姿が見えた。
「あちゃ~見られちゃったよ。早くずらからねーと…あの野郎をぶっ殺してからな」
突如コンビニが爆発を起こした。爆炎に包まれ、無惨な姿と化したコンビニから、先程の変異者が悠然とした様子で現れた。
「当店は本日をもって閉店となりまぁ~~す。あ~まだイラつくぜ、何もかも破壊してやりてェ…。ん?そこの虫みたいな奴、何かムカつくなァ…」
「クソッ、お前のせいでまたワイシャツがパーになったぞ!どうしてくれる!」
「やかましい!死ねェ!」
変異者はまたも火球を発射した。
「そう何度もくらうかよ…」
陸海は某ハリウッド映画のように、体を後ろに反らせてそれを回避した。躱された火球はそのまま彼の後方にいたハイヒール女に直撃し、彼女を粉々にした。
体を反らせたまま、陸海は言った。
「あ、完全に忘れてた…!」
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