第14話

 「いや、危ない所だったな」

 「ほんと、勘弁してほしいですね」


 危機が去った所で二人は大きな息を吐く。 


 「……よくよく考えたら駄弁ってる場合じゃなかったな。 そういや他の悪魔についても分かるのか?」

 「一応、分かりますよ」

 「だったらまずは出くわしたらヤバそうな奴に関しても前情報が欲しいな」


 特に今回、遭遇した『29/72アスタロト』という悪魔は祐平の情報がなければ負けていたかもしれないと水堂は考えていた。 あのまま戦っていた場合、水堂も魔導書の第四位階を使用していただろう。

 そして祐平から教わらなければそのまま第五位階まで行って、仮に倒せたとしても寿命を使い切って自滅していただろう。 


 「そっすね。 取りあえず休憩も兼ねて情報を集めましょうか。 何か書くもの持ってます?」

 「これでいいか?」

 

 水堂が懐から出したのはシステム手帳だ。 祐平は充分ですと言ってボールペンと一緒に受け取り、グシオンから情報を引き出すべく魔導書を使用した。



 「――まず、悪魔の数は全部で七十二体。 よく漫画とかラノベのネタにされる『ソロモン七十二柱』って奴ですね」


 祐平が知ってます?と尋ねると水堂は何かで見たようなといった様子だった。

 

 「つまりここに放り込まれた人数は全部で七十二人って事か?」

 「多分そうかもしれませんが、俺達をここへ放り込んだクソ野郎も持っている可能性があるので七十二冊フルで入ってないかもしれません」

 「あぁ、使われると面倒くさそうな奴は自分で押さえてる可能性があるか」

 「はい、それも踏まえての話になるので順番に行きましょう」


 祐平はさらさらと受け取ったシステム手帳に書き込む。


 「まず、最初の一体である『01/72バエル』って悪魔なんですが、こいつが一番ヤバそうですね」

 「どうヤバいんだ?」

 「人間に叡智を授けてくれるらしいですよ。 詳細は不明――っていうか『11/72グシオン』がよく分からないって答えている時点でヤバいです。 手に入るならもしかしたらここから出る方法も教えてくれるかもしれないので、可能であるなら持っている奴を味方に付けるか、無理そうなら奪いたい筆頭ですね」

 「それなら主催者本人が持ってるんじゃないか?」

 「俺が主催側なら絶対に手放さないので、充分にあり得る話ですね」


 事細かに書き込むときりがないので祐平は順番にどんな見た目で、どんな能力を持っているのかを順番に書き込んでいく。 ただ、『11/72グシオン』の能力も万能ではないので、何か隠している能力があるかもしれないと付け加えた。


 地震を起こす、現在過去未来を見通す、死者を操る、炎を操る、癒しの力を持つ等々と多岐に渡る。

 

 「色々いるが似た傾向の能力を持っている奴が多いな」

 「はい、大きく分けて戦闘、情報、後は精神操作の三種類ぐらいですかね」

 

 戦闘は殺傷能力の高い攻撃手段を持っているタイプだ。

 水堂の『07/72アモン』はこれに該当する。 情報は知識を与えたり、未来を見通すタイプで祐平の『11/72グシオン』が該当する。 最後の精神操作だが、場合によっては使役者すら操りかねない。


 「取り上げた『28/72ベリト』とかそれっぽい感じだな」

 「そうですね。 嘘で丸め込んでその気にさせて来るので精神操作寄りだと思います」

 「……使役する側なのに逆に使われる可能性があるとかやべぇな」

 「防ぐ方法は誰かと一緒に居る事みたいですね。 傍から見てヤバいと感じれば指摘して気付かせるのが効果的な対処法みたいです」

 「それも『11/72グシオン』から引き出した知識か?」

 「……そっすね」

 「それヤバくね?」

 

 二人は顔を見合わせて――少しの時間声を上げて笑った。

 

 「はっはっは、いや、笑った笑った。 水堂さん冗談も言えるんすね」

 「ま、俺から見りゃお前は充分まともだ。 ぶっちゃけ、俺の方がヤバいだろ」

 「そりゃ安心です。 さて、一通り書き出したんで大事に持っててくださいよ」

 

 祐平は一通り書き終わったシステム手帳を返し、受け取った水堂は懐にしっかりとしまう。


 「取りあえず共有は済みましたが、具体的にはどう対処します?」


 実際、逃げ回ってもその場凌ぎにしかならないので、根本的な解決に向けて動く必要がある。

 

 「ここから出る前に死んだら洒落にならないからな。 歩き回って仲間を探しつつって感じで行こう。 まず優先するのは俺達自身の命だ」

 「そっすね。 俺としては笑実も探したいんで、歩き回る方針には賛成です」


 笑実は争い事には向かない性格をしているのでどこかに隠れている可能性が高い。

 動き回って探すのは合流を狙う祐平としては非常に都合が良いのだ。


 「そうだな。 確定で信用できる奴はこの状況では貴重だ。 早い所、お前の妹分を探し当てて、合流しようぜ。 それに頭数が揃えば選択肢も増える」

 「三人寄れば文殊の知恵って奴ですか?」

 「そんな御大層なもんじゃねーよ。 よし、休憩も出来たしぼちぼち行くか」


 二人はよっこらせと立ち上がると歩き出した。

 先行きは不安だったが、互いがいるお陰か何とかなるんじゃないかと希望を抱けていたのだ。



 「クソが! あのガキ共何処へ行きやがった!?」


 佐田卦さだげ 鍔差つばさは苛立ちを吐き出す。

 理由は単純でさっきまで追いかけていた二人を取り逃がしたからだ。

 彼の思考もまた単純で、この状況へ放り込まれた事に対する苛立ちもあったが目に見えない主催者を恨むよりは目に見える他の参加者相手に楽しもうと考えたのだ。


 手に入れた魔導書も戦闘特化で彼との相性も非常に良かった事も大きい。

 佐田卦は試した力に酔いしれ、気持ちが大きくなっていた事もあって男なら痛めつけて手下にし、女ならそれなりに優しくしてやってもいい。


 そんな気持ちでこの迷宮内を歩いており、誰かと遭遇する事――特に若い女に期待していた。

 だが、そんな彼の期待に反して現れたのは若い男が二人。

 何で男なんだよと露骨に失望を露わにし、せめて便利なパシリにでもしようとしたが反抗的な態度を取る事もまた面白くなかった。


 ならばと痛めつけてこの不快な気持ちを吹き飛ばそうと考えていたのだが、腰抜け二人は早々に逃げ出したのだ。 魔導書の第四位階を使ったにもかかわらずこの結果。

 服が駄目になった事もそれに拍車をかけていた。 憂さ晴らしに迷宮内を徘徊する怪物を惨殺して回っていたが、気持ちは晴れない。


 やはりさっきの男二人を徹底的に痛めつけて地に這わせないとこの苛立ちは収まりそうにない。

 佐田卦はどこ行きやがったと威圧するように声を上げるが、応える者は居なかった。

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