第12話
「さっきから歩いていて思ったんだが、ここって迷路みたいっていうか実際に迷路なんじゃないか?」
不意に水堂がそう呟くのを聞いて祐平は今まで歩いてぼんやりとだが見えて来たこの場所の構造を思い出す。 確かに認識としてはかなり近いかもしれない。
「迷路だったら出口がありそうなものですけど……」
「ま、ないだろうな。 あの訳の分からん奴曰く、この魔導書ってのを完成させるのが目的みたいだし、逃がす気はないだろうよ」
「……ですよねぇ……」
半ば分かり切った事ではあったが、改めて出られないと理解すると気持ちが落ち込む。
「どうやれば出られると思います?」
「さぁな。 ただ、最後の一人になったら出されるだろうよ。 俺としてはわざわざこんな状況を用意して何をしたいのかってのがさっぱり分からんのが気持ち悪いな」
「確かに。 魔導書をわざわざ俺達に配って奪い合わせて何がしたいんですかね?」
この催しを企画した人物の目的がさっぱり分からない。
既に完全な魔導書を手中に収めている状態で、分割して祐平達に配る意味が理解できないのだ。
「愉快犯的な感じとか?」
「あり得ないとは言い切らないが、さっきの話し振りを聞く限り完全に正気に見えたがな」
水堂の意見は祐平も同意できるものだった。 明らかに明確な意図を以って、この状況を作り出している。 つまり、この場所に魔導書と持ち主をばら撒いて何かをさせたいのだ。
「そっすね。 マジで何を考えて――あ、前、三十メートルぐらいに何か居ますね。 見た感じ、悪魔じゃないのでこっちで追い払います」
祐平は『
「悪いな」
「いえ、魔導書持ちにはまず効かないみたいなんで、戦う事になったら任せきりになるんで露払いぐらいはやらせてくださいよ」
「あぁ、いざって時は任せとけ。 ――で、話に戻るんだが、まったく手掛かりがないって訳じゃない」
怪物が去っていく姿を見送りながら祐平は水堂の話に黙って耳を傾ける。
正直な話、心当たりが全くなかった上、年上と言う事で祐平はすっかり水堂を頼りにしていた事もあった。
「魔導書ってのは寿命を消費して力を出せる。 これは間違いないな?」
「えぇ、『
「その辺は疑っても仕方がないだろ。 手元に『
で、だと水堂は話を続ける。
「仮に魔導書を揃えてウン十の悪魔を使役できる能力を手に入れました。 ――それでどうするよ? 数が揃ってたとしても使う奴の寿命は限りがあるから、無駄じゃないか?」
「……確かに」
水堂の指摘はもっともだった。 いくら強力な悪魔が複数いても寿命が限られている人間が扱うには無理がある。 第五位階なんて使ってしまえば早々に使い切ってしまう。
そう考えると魔導書を揃える事にメリットをあまり感じなくなる。
「な? ぶっちゃけ魔導書ってバラしたまま使った方が効率がいいんだよ。 一人で揃えても有効に扱えるとは思えない。 で、それを踏まえると主催者の狙いも見えて来るんじゃないか?」
「つまり寿命の問題を何とかする為にこの状況を作ったって事ですか?」
「あぁ、今の所だが、手元にある情報から推測すると一番無理のない理由じゃないか?」
「そうですね。 問題は具体的な所が分かんないってとこですか……」
祐平がそういうと水堂はそうなんだよなぁと呟いて唸る。
「……なんか蟲毒みたいに殺し合わせて最後に生き残った奴を倒すと寿命がぐっと増えるとか?」
「いやぁ、それ無理なくないっすか?」
「正直、俺もそう思ってる」
「こんな状況なんで常識よりも漫画とかのセオリーで考えてもいいかも――あ、正面、また化け物ですね。 脇道あるからスルーしましょう」
途中、別の道があったので折れて正面の脅威を回避しつつ二人は会話を続ける。
「あぁ。 ――それで漫画的なセオリーで考えるならどうだ?」
「う、うーん。 なんだろ?」
改めて考えてみるがパッと出てこない。
それなり以上に漫画は読んでいるはずなのにと祐平は頭を捻る。
「おいおい、言い出したのはお前だろうが。 そうだな、実は支払った寿命は魔導書にストックされて、主催者はそいつを引き出す方法を知っているとかどうだ?」
「あぁ、それはあるかもしれませんね。 それだったらここで死んだら魂的なものが残留してエネルギーとしてプールされるとかどうです?」
「なるほど。 それはあるかもしれないな」
水堂が調子が出て来たんじゃないかと軽く小突くと祐平は苦笑。
「今の所、考えられる可能性としてはこの迷宮は俺達を殺し合わせて魔導書を使う為の寿命を賄う為ってのが怪しいな」
「そうですね」
「……まぁ、分かった所でどうなんだよって話だがなぁ」
水堂がわざとらしく肩を落とすと祐平は小さく笑う。
現状の確認もあるが、会話を続ける事で気持ちを上向きにする意味合いが強い。
黙っていると余計な事を考えてしまい、余計な考えは不安を生む。
そして不安は行動に悪影響を及ぼす。 意識してやっている事ではないが、水道は無意識にそれを理解しているのか、次々に祐平へと話題を振る。
祐平もぼんやりとだがそれを察していたので積極的に乗り、話を広げる努力をしていた。
その後も二人の話は続く。 祐平は学校の話、水堂は就活の苦労話。
「――学生時代は金欲しいとか思ってたけど、将来の事をあんまり考えなくて済んでた頃が懐かしいぜ」
「やっぱ就活ってしんどいですか?」
「マジでしんどいぞ。 学歴で箔付けとけって言われる理由を身に染みて感じてる。 いや、俺って高校出た後、フリーターやってたんだけど親がいい加減に定職に就けってうるさくてな。 それで慣れないスーツ着て色んな企業を履歴書片手に回ってる感じだな。 一応、ハロワにも行ってるんだがなぁ。 こう、先々に備えて蓄えられて食ってけるぐらいの将来性がある職場ってなると難しくてな」
「それ高望みしすぎじゃないっすか?」
「耳が痛いな。 いや、でもよぉ、適当に入って辞めたら次で『こいつ根気ねーな』って落とされるのムカつくだろ?」
「あ、それは何となく分かり――」
不意に祐平が口を閉じる。 雰囲気を察した水堂は声を落とす。
「化け物か?」
祐平は小さく首を振る。
「いえ、人間っぽいですね」
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