第3話 小悪魔でいたずらっぽい姫野さん
「ちょ、ちょっと待って! 姫野さん、それは本気なの!?」
「んー? 本気だけど?」
「でも、どうして俺なんかと──」
「ダメ?」
「……!」
姫野さんはニヤっとした、いたずらっぽい顔で、手を後ろに組んだまま下から覗くように近づいて来る。
よく見れば、普段はガードの固い胸元も少し甘めになっていて、谷間がチラ見えする。
「あ、胸見た」
「え、いやっ!」
やばい、バレてた!?
指摘されて
「君、やっぱりえっちなんだ」
「ご、ごご、ごめんなさい!」
俺は焦りと罪悪感で急いで頭を下げる。
「反応が初心でかわいいなあ。別にいいよー、
「うぐっ」
姫野さんは俺のエッチ小説ノートをひらひらさせながら、ニヤニヤしてくる。
相変わらず可愛いけど、彼女のこんな表情はやはり慣れない。
「てことで早速。で、なになにー? 最初は──」
「わー! わー!」
俺の小説を読み出されそうになり、思わず声を上げる。
それでも姫野さんは、そのいたずらっぽい顔で読むのをやめない。
「下校デートだって。へー、かわいいね~」
「~~!!」
何か言い返したいけど、右手を口元に当ててニヤニヤとしてくる顔に、何も言い返せない。
自分の妄想を本人に直接声に出される、こんな恥ずかしい体験はまずない。
だが、その返答は意外なものだった。
「じゃ、一緒に帰ろっか」
「……へ?」
俺の中で時が止まる。
耳には入ってくるのだけど、脳には入ってきていないみたいに。
「今、なんと?」
「一緒に帰ろって言ったんだよ? あれ、そんなことも出来ないのかな? この小説に出てくる男の子はもっと根性があるように思えるんだけどなー」
「うぅっ」
小説に出てくるヒロインはまんま姫野さん。
だけどこの小説にもう一つ秘密がある。
実は、妄想ラブコメなので主人公は自分をイメージしてる。
外見やセリフは男っぽいけど、名前がそのまんま『
「で、どうするの? 一緒に帰るの? それとも可憐な女の子を一人で帰らせるの?」
「そ、それは……」
「んー?」
「……!」
挑発するような表情の姫野さんが、下からさらに俺に顔を近づけてくる。
か、可愛すぎる!
それに近い……!
「ちょっと、姫野さん!」
俺は咄嗟に、彼女の肩を押し退けて距離を取る。
「あら、君には刺激が強かったか。とりあえず帰りましょっ、
「……!」
いきなり下の名前で!?
「ほらほら、これ返してほしいんでしょ?」
「わかったよ、姫野さん……」
そうして顔を下に向けて付いて行こうとするが、ぽふっ。
「姫野さん?」
頭が姫野さんの柔らかい部分に当たってしまう。
「誰だって? 聞こえなかったなー」
「え、だから姫野さ──」
「んー?」
「!」
これまさか、俺も下の名前で呼べってことか!?
「ほらほら、誰と一緒に帰るって?」
「あ、あま……」
「うんうん」
「
「よくできました」
「……!」
そう言いながら、彼女に頭をなでなでされる。
初めて彼女と対面で下の名前で呼んだのと、「なでなで」という未知の体験が重なって、俺の頭が爆発しそうだ。
「ふふっ、かわいいね~」
「からかわないでよ……」
そうして俺は、鼻歌を歌いながら屋上を降りていく天音ちゃんに付いて行く。
「……はぁ」
正直、まだ心臓がドキドキしすぎて苦しい。
単純に憧れの天音ちゃんとたくさん話せたこともなんだけど、少なからず今の状況に戸惑っているんだと思う。
普段は常に眩しい笑顔が絶えないクラスの天使、天音ちゃん。
そんな彼女が、俺に「ちょっとエッチな小説」と同じ事をしたいと言ってきた。
それも、普段は見せない小悪魔的な表情で。
「……」
どうして俺なんかと?
それともただのおもちゃ?
色々と疑問は絶えないけど、
「いこっ?」
今はこの可愛すぎる笑顔に完敗だ。
難しく考えるのは早々にやめ、俺もるんるんで彼女に付いて行く。
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