第2話行けども行けども砂漠
距離感がつかめなかったが、歩いていれば着くだろうてきな感覚で和也は歩いた。
が、歩き続けても、いっこうにオアシスに近付く気配は無かった。
オアシスに向かって歩き始めてから、延々と炎天下を進むがいっこうに辿り着けないことに内心で溜め息がこぼれる。
やっぱり、やっぱり現実はキビシーなぁ‥‥‥はぁ~。
「ハァーハァー‥わりと‥‥近く見えたんですけどねぇ~‥ハァーハァー‥歩いても‥歩いても近付かないのって‥‥‥」
多少の高低差はあるものの、一面砂漠で障害物になるようなモノが何も無い。
お陰で、距離感覚が掴み難い為、実際に歩き始めるまで、見えたオアシスが結構どころじゃないほど、とても遠いという事に気付かなかった。
「今‥遠くに見えている‥あのオアシスが‥ハァー‥ハァー‥‥実は‥蜃気楼ってことは有りませんよねぇ~‥‥‥‥」
あぁ~‥うぅ~‥ボクの体力‥何処まで持つかなぁ~‥‥。
「もしも‥本当に見えているアレが現実にあるオアシスじゃなくて、蜃気楼だったら‥‥完全にアウトですね‥‥‥」
照り付ける太陽の日差しに、素肌をジリジリと焼かれる痛みに耐えながら、和也は上がる心拍数と息苦しさを感じつつも、ただひたすら歩いた。
「ハァー‥ハァー‥どぉ~して‥‥ボクは‥ハァー‥こんなところに居るんでしょうか?‥ハァー‥‥‥」
延々と歩き難い熱された砂の海を、炎天下で歩く和也は無意識にぼやくが、それに答える声は無かった。
が、自分がそんなぼやきを口にしているという自覚さえない和也は、暑さで途切れそうになる意識を繋ぎ留める為に、無自覚に疑問を口にしていてた。
「ハァー‥ハァー‥誰も居ないから‥‥此処が何処か訊けないし‥‥‥ハァーハァー‥流石に‥砂漠の民並みの体力の無いボクにはキツイですね‥‥喉はやたらと渇くし‥ハァーハァー‥‥見えてるのに‥オアシスが‥ハァー‥‥遠いです‥‥‥」
唇を動かして喋る事で、口腔内の水分が奪われて喉が渇いていくという事実にも気がまわらないまま、和也はぼやきながら歩き続ける事、数時間。
とはいうものの、時計が無い為、和也に時間経過は判らなかった。
何故なら、強い日差しを放つ太陽は相変わらず中天で燦々と輝いているからである。
ただひたすら、灼熱の砂漠を歩き続ける和也を慰めるかのように、緩やかな風が頬や素肌を撫でるが、その風も何時しか熱風へと変わっていた。
ハァー‥ハァー‥あつい‥‥風も熱風になっちゃったし‥‥‥‥‥って‥あれ?
風がフワッて吹くと‥最初は気持ち良いくらいだったのに?
えぇ~と‥‥もしかして、太陽も全然動いてないように見えて‥動いてるって事かな?
その事実に気付いた頃、やっとオアシスが近付いた実感が出で来た和也は、その事実に気付く。
ああ‥なんだ‥‥あそこから見えていた、オアシスって‥そんなに規模が大きくないものかな?って、思ったけど‥‥‥。
実物は大きかったんだなぁ‥‥どうりでねぇ。
熱風の中にオアシスの水面を撫でたらしい風が微かに混ざり、ヒンヤリとした湿気を僅かに伴なった風が頬を撫でている事に気付き、和也は心底ほっとする。
良かったぁ‥‥ニセモノじゃなくて‥‥‥蜃気楼だったらどうしようかと思ったけど‥‥‥。
どうやら本物みたいだ。
はぁ~‥‥乾ききった砂漠を歩いたセイかな?
普段そういうモノを意識したことないボクでも、水の匂いを感じる。
いったいどれくらいの時間と距離を熱砂の砂漠を歩いたかは判らないが、ようやく和也はオアシスに到着した。
「はぁ~‥良かったぁ‥‥‥」
ぽつりと呟いた和也は、取り敢えず喉を潤す為に、オアシスの水辺へと進む。
オアシスの水は、どうやら湧き水らしく、水底が見えるほど透き通っていた。
透明度が高い為、湖底で砂が舞い上がり、水が吹き上げているのを見て取れる。
これだけ綺麗な水なんですから、お腹を壊すことはまず無いでしょう。
よく見れば、湖底の砂がふわふわと踊ってますから、湧き水みたいですし‥‥‥。
和也は両手で水を掬い、取り敢えず喉の渇きを癒す為にゴクゴクと飲んだ。
「‥‥はぁ~‥‥美味しい‥‥‥純粋なお水を、こんなにも美味しいって感じたのは初めてですね‥‥‥」
誰も応える者が居ないという孤独感から、和也は無意識にそう呟いてから、キュッと水で濡れた口元を手の甲で拭う。
そして、水際にわさっと生えている太いヤシの木が作る木陰へと移動した。
灼熱地獄の炎天下からやっと解放された和也は、其処で一番太いヤシの木に寄り掛かるように座り込む。
そして、なんで自分が今現在の状態に陥ったかを、休息をとりながら、じっくりと考え始めたのだった。
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