300字の独り言(二言目)

森村直也

第1回『初』:克服の体験

 ――死ぬのは初めて?

 NOと答える人間が果たして居るのか。

 ――怖いでスか? 大丈夫、初めては何でも怖いンです。

 胸元にパッドが当てられる。手足も首も固定され。震えだけが背筋を抜ける。

 ――知とは勇。体験で恐怖は克服できまス。

 ゴーグルの奥、薄らと見える目は三日月型で。

「や、めろ」

 ――脳への血流が滞ると、撹乱された脳波が観測されまス。

 ロクでもない親が知人が、愛しい人が、愛し子が。

 ――走馬灯と呼ばれまス。


 体験はこの任務には不可欠だ。生きて家族に会うか。死んで十分な手当を得るか。祖国を売れば重い犠牲が。冷静にそれらを並べて選べる。

「死が怖くはないのか?」

「怖くはないね。知っているから」

 敵国の言葉で俺は答える。

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