最後の戦い・前編
Side 結城 浩
(いよいよか……)
遂に戦いはクライマックスを迎えた。
見ている自分達もゴクリと喉を鳴らす。
ここまでハリウッドのアクション映画ラストシーンを凝縮したような迫力と緊迫感ある戦いだった。
自分達が出来る事は眼前に広がるスクリーンを通して見守る事と目の前にあるマイクから声援を送るだけだ。
本当は考えたくは無いが――もしも、もしも達也達が負けたら、今度は自分達の番になるだろう。
あのジェノサイザーは軍事基地を平然と壊滅できるような化け物らしい。
なら自分達の町を焼け野原に変える事など造作も無い事だろう。
(だからどうした……)
だが浩は答えを出していた。
皆はどう思うかは知らないが達也と過ごした僅かな時間は決して後悔はしない。例え今戦っている皆のせいで町が廃墟になってもだ。 正直自分でも頭がイカれてると思う。
しかしそれが浩の出した決意である。
それに――考えても欲しい。
仮に達也達じゃなくて、他の誰かだったとして、自分達の無関係の人間だったとしよう。
たぶん自分は他人事のように「あ、そうなんだ」と無関心に日々を過ごしていただろう。
実際セイバーVとリユニオンの戦いも少年にとっては新年戦争さえも他人事だった。せいぜい国内で起きた大地震規模程度の認識で今一つ自身の人生と関わりがあるとは思わなかった。
だが達也達との出会いが良い意味でも悪い意味でも変えてしまった。
実際、彼達のせいで突然学校を襲撃されるような事件まで起きた。幸い死者は出なかった物のこれは言い訳が出来ないれっきとした事実だ。
でも悪い事だらけでは無かった。
皆がサイバックパークで失った友人や先生の悲しみを乗り越えて、一つに団結する事が出来た。
これは本来あっても良い事なのかどうなのかは浩には分からない。
ただこれだけはハッキリと言える。
嘗ての自分のように命の恩人を蔑ろにするよりかはマシだと。
ギュッとマイクを握る力を強める。
こうして傍観してるだけの自分がどれぐらい達也達の力になれるかは分からない。それは0・1%にも満たないのかもしれない。
それでも全力で支える。そう決めたのだ。
例え本人達が絶望しようとも周りが諦めようとも自分は絶対絶望しない。何があっても――何故そこまで自分自身を駆り立てるのかは浩自身も分からない。たんなる自己満足か、あるいはあの時の贖罪をするためか、もしくは両方なのか、それとも他の理由か。
だが不思議と今の自分がとても人として当然のように思えるのだ。
「絶対勝てよ――達也――」
『うん、分かってる』
自然と漏れた呟きに返事が返る。
Side 工藤 順作
(今の今まで……長い長い――道程だった)
全ての役者が出揃った。
「古賀博士? この戦いどう見ますか?」
「ワシは信じるよ。あのゴーサイバーの、真なる力さえ発揮できればジェノサイザーにだって負けはせん」
「真なる力――以前言っていた心との連動による精神機関ですか?」
「そうじゃ、ゴーサイバーは兵器ではない。意志の力にて未来を切り開き、それを示す光なんじゃよ」
「光……」
「ワシも最初は子供に過酷な運命を背負わせた事に負い目を感じていた――だが今は違う。ワシは若者達の可能性を信じる!! それがきっとゴーサイバーの真の力を引き出してくれると信じておる!!」
「そうですか……」
科学者らしからぬ精神論だ。
だが結局の所最後はソレが決め手になるんだろう。
司令としてはそんな非科学的な物に頼るのは失格な気もするが不思議と古賀博士の熱弁には説得力があった。実際その精神論で自分達は――達也に救われた事もあったからなのだろう。
「希望は託した……後は……彼達を信じよう」
「ええ……」
そしてモニターに注視する。
そこでは既に激しい戦いが繰り広げられていた。
Side 桃井 薫
『こんな時に何だけど、五人揃って戦う何て久しぶりよね』
『確か初めての出動以来だった筈……』
ジェノサイザーから放たれる攻撃を躱しながらエレクトロガンで応射する芳香、麗子。
先程までずっと貼り付けにされていたとは思えないぐらい動きにキレがある。
『そうね――』
『達也君大丈夫?』
『僕は大丈夫。それよりもジェノサイザーを……あのバリアを何とかしないと!!』
『ああ――とにかく強力な一撃が必要だ――』
ちなみに今ナオミは一人でシュタールを押えてくれている。
今はデンジダーを含めた六人掛かりでデモニックブーストで暴れ狂うジェノサイザーを倒さなければならない。しかも新たに武器を――右手に禍々しく赤光りする剣、左手に銃を持ち始めている。剣からはエネルギーの斬撃が飛び、銃からは一撃で怪人を纏めて倒せる程の破壊力を持つエネルギー光弾をマシンガンの様に連射してくる。しかも空中を戦闘機のように勢いよく自在に飛び回りながらだ。だから遠距離戦闘に終始するしかなかった。
だがゴーサイバーは接近戦偏重の武装でデンジダーには一応強力な遠距離技を持つが相手が早過ぎるので使い所を掴み兼ねている。マリアのサイバーボウガンも当たらない。
なので空中戦が可能な達也が貧乏クジを引かなければならなかった。だが相手の火力が凄まじくて中々近付けない。これでは動きを止めるどころか戦い続けるのも至難の技だった。
『私も行く』
『だけど薫、エンジェリック・ブーストは……』
と、麗子は遠回しに止めようとする。
『分かってる。だけど一人だけじゃ達也君も辛いと思うから』
『だけど無茶だわ!!』
マリアが止めようとするが――
『それでも行くよ』
『そう――』
『……分かったわ』
何かを決断したかのようにマリアは皆に通信を入れた。
『いい皆。動きを止められたら――ギガサイバーバズーカを使用するわ』
『え? 何その武器!?』
『破壊力が強すぎて五人一組じゃないと使えない武器なの』
『んなモンがあるならどうしてあの時使わなかったの!?』
と、芳香が詰め寄るが……
『……ジェノサイザーの動きを止められもしないのに使ったら逆に基地を吹っ飛ばしてたからよ』
『そ、それは』
前回の体たらくが脳裏を過ぎって押し黙った。
確かにあの状況で使っても普通に回避される可能性は高かったように思える。
戦隊物の撮影ならともかく機動力も化け物レベルのジェノサイザーで、更に数段上になっている今なら尚更だ。
『なら私はそれを使う時間稼ぎをしよう――』
『あるんですか?』
『ああ。だが一度使えばもう二度は使えん。つまりチャンスは――』
『一度キリと言う訳ですね?』
『話が早くて助かります』
即興ではあるが作戦の段取りは組み上がって来た。
成功率は百%では無く、賭けの要素は強いが――
『あの二人次第ね――』
マリアは見上げた。
そこには達也と薫、そしてジェノサイザーが縦横無尽に青い空を駆け巡っていた。
遠くから聞こえる戦闘の音も最初の頃と比べると散発的になっている。どうやらこの戦いもそろそろ終幕が近付いているのだろう。
後はあの二人が――
☆
『薫!? 薫なのか!?』
『達也君! 私も手伝う!』
『目標確認、破壊する』
『ッ! 僕に合わせて挟み込んで!! それだけで負担は減るから!!』
『分かった!』
光の羽根を生やしながらサイバーセイバーとエレクトロガン、ソードモードを振るう薫。
達也もサイバーライフルを何発か当ててるがバリアを突破出来ずにいる。
(これは――)
至近距離で見てみると装甲に焦げ目らしき物がついている。
バリアで常時守られている筈のジェノサイザーにだ。
(そうか――黄山さんは一度突破したのか!!)
どうやってかは分からないがジェノサイザーのバリアを一度破壊したとしか考えられない。
たぶんソレがキーとなってデモニック・ブーストが発動したのだとしたら色々と辻褄が合う。
『聞こえる達也君!』
『薫?』
突然通信で薫が呼びかけてきた。
『私ね、一度だけバリアを突破した事があるの』
『え!?』
『エンジェリック・ブーストの全力全開を乗せた一撃だったけどね――』
そう、薫はあの強固なバリアを突破した事があったのだ。前回の戦いで、自分の全身全霊と運命を賭した一撃でだ。
『じゃあ――』
『だけど今は無理。ジェノサイザーは火力だけじゃない。瞬間移動とか出来るから』
『ああ、データで届いている。今の所は使ってないみたいだが……たぶん使う必要はないからだろうな』
『うん。だからね――』
『――そうか、分かった!!』
そうして作戦は開始された。
上下から挟み込むように、大きく弧を描きながら飛行する。
ジェノサイザーは両方に銃弾を放とうとするが――
『そこ!!』
棒立ちしていた所を狙い済ましてマリアのサイバーボウガン、芳香と麗子のエレクトロガンが直撃する。
当然バリアに阻まれた。だがそれで良かった。
『貰った!!』
それを狙ったかのように、両脚へプロテクターを装着した達也がサイバーキックをジェノサイザーよりも上空から放つ。
勢いよく激突するもバリアに阻まれるが――
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
だが諦めなかった。
何度も何度も蹴り始めた。怪人を一撃で倒せる強烈なキックがバリアを叩き始める。
それに合わせるように地上からも援護射撃が来た。
「まさか……ジェノサイザーを……あの化け物を破壊するつもりか!?」
「ふふふ、ボウヤったら……私も負けてられないわね」
その光景にシュタールはあのサイバックパークでの敗北を思い出した。あの時もああやって力任せに、強引に自分を打ち破った。
まさか今度も!? 何故だ!? 他の戦士よりも明らかに劣る筈の単なる少年でしかない筈なのに!!
大幹部は動揺する。
『いっけぇえええええええええええええええええええ達也!! そのままぶち破ってやれぇええええええええええええええええええ!!』
(浩君!! 応援ありがとう!!)
想定外のあまりの衝撃に耐え切れず、両脚のプロテクターにヒビが入る。しかし相手のバリアも段々と――そして背中から伸びていたデモニックブーストのエネルギーが収まっていく。恐らくだがエネルギーをバリアに回しているのだろう。地上と空からの二方面からの強烈な攻撃下で下手な攻撃に移れば自爆しかねない。だから耐え凌ぐしかない。しかし――
『やった!!』
プロテクターが砕け散る音と共に、ガラスが割れる様な音がした。
バリアが破られたのだろう。
だが同時にジェノサイザーの姿が消える。事前に「瞬間移動の事を聞いていなければ」動揺してしまうところだ。
背後には剣を振り下ろそうとするジェノサイザーの姿があった。
『――バリアー発生装置……破損……』
そして達也は右へ避けて――入れ替わりに胴体のベルトへサイバーセイバーを突き立てる薫の姿があった。
事前にバリアー発生装置の情報を黄山さんがマリアを通して教えてくれたため、そこを叩いたのだ。
『今だ黄山さん!!』
『おお!!』
二人が離れ、入れ替わりに地上で待機していたデンジダーが動き出す。
『デンジダー超電竜巻!!』
巨大な電撃の嵐がジェノサイザーを襲う。
諸に巻き込まれたジェノサイザーは小爆発を起こしながら電撃のミキサーを全身で浴び続けた。
そして達也、薫、マリア、芳香、麗子の五人は切り札――ギガサイバーバズーカーを呼び出す。
五人のベルトに備え付けられた電子端末から粒子が飛び出し、それが一つに集まって巨大な砲台が形成される。
それぞれの配置についてバズーカーを抱え、ジェノサイザーをロックオンする。丁度超電竜巻が終わり、地上から落下してきた所だ。
『チャージ100%!!』
「させるかぁああああああああああああ!!」
『あっ、ちょっと!?』
それをナオミとの戦いから抜け出してシュタールは妨害しようとする。
「がっ!?」
が、突如空中で爆発してしまう。
一瞬何が起きたか分からなかった。
『遅れてすいません――』
『寺門さん!?』
と、何やらバズーカらしき武装を持った寺門 幸男がいた。彼がその武装で狙い撃ってくれたのだろう。
先程持っていなかったが恐らく粒子化して取っておいた武装と見るのが正解だ。
『それよりもトドメを――』
『ッ!!』
そうだった。
達也はギガサイバーバズーカのトリガーを任された。だからバズーカ―の各端末――スコープから映し出されるモニターを見る事が出来た。そこには黒い煙を上げる焼け焦げたジェノサイザーの姿がある。まるでボロボロになったサンドバックのようだ。
それでも奴は忠実に自分自身の使命、破壊を実行するために襲い掛かろうとするだろう。その狂気のプログラム諸共消し去るには……今しか無い。
『いっけぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!』
凄い衝撃だった。
反動で地面を数cm後退った程である。
ギガサイバーバズーカは本体の出力にゴーサイバー五人の出力がプラスされる。その破壊力はサイバータンクの主砲を上回る。
巨大な砲身から放たれた極大の閃光は地面を掻き分け、大気を明るく照らし、一瞬にしてジェノサイザーを包み込んだ。
そして――大きな大爆発の煙が上がった。
『やった……やったの!?』
『芳香、油断しないで!! まだシュタールがいる!!』
『そうね――奴を倒さないと!!』
『達也君!』
『ああ――これで最後だ!!』
五人はバズーカの砲身をシュタールへ向けた。
「クソ……ここは撤た――」
『させると思った?』
「!?」
シュタールの体にナオミの鞭が巻き付く。と同時に電撃が流された。
その間にもギガサイバーバズーカの出力が上昇する。
『電撃破!!』
茂も電撃を放った。
先程大技を使って疲れているだろうに頭が下がる思いだった。
『チャージ100%、今よ!』
『はい!』
もう一発発射する。
同時に電撃と鞭による拘束が解除された。
「俺は死なん!! 死なんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
シュタールもまた光の奔流に飲み込まれ、爆発を起こして散った。
同時にソレはこの戦いの終結を意味した。
やった!!
遂に終わった!!
誰もがそう思った。
『――対象を……全て……破壊する……』
その不気味な電子音声が勝利の余韻を一瞬にして掻き消した。
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