ジェノサイザーの脅威


 サイバックパークはわりと近所である。

 デンジダーマシン(サイドカーのスーパーマシン。サイドカーには達也が乗っている)と電子クラフトを使った三人はスグに辿り着けた。

 やはり戦いがあったのだろう。遠くからでも黙々と煙が立ち上っているのが分かる。その戦いの激しさは近付くにつれてより克明に輪郭を露わにした。

 戦闘員の骸。爆発で破損したらしき建物。傷付いた戦闘要員達。


 何より驚いたのは――


『これは――サイバースーツ?』


 重武装のサイバースーツがそこにあった。

 背中にキャノン砲、ミサイルパック。

 左腕にシールド内蔵式ガトリング砲、右腕には厳つい大きなアサルトライフル(後から聞いたがビームマシンガンらしい)、更には体全身を覆うように増加装甲まで取りつけられていた。機動力低下を防ぐためにスラスターらしき物まである。

 それが黒焦げになって焼け落ちていて、一部のパーツは破損し内部のスーツまでダメージが通っていた。

 近くにいた整備スタッフの話によるとキャノン砲、ミサイル、アサルトライフル、装甲に搭載されたバルカン砲共にほぼ残弾はゼロに近く、余程激しい激戦だったであろう事を連想させる。


『こっちは大型のパワードスーツ?』

  

 他にも大型の前時代的なパワードスーツな代物も見える。

 此方は片腕がもがれており、片足も無くなって黒焦げになっていた。


「おお、来たか――」


『古賀博士!! 無事だったんですか!?』


 出迎えてくれたのは古賀 電助博士だった。

 傷を負ったのか包帯を巻いているが元気そうにピンピンしているように見える。


「まぁ何とかな――ワシもこのパワードスーツ「コガイダー」で出たんじゃがこの有り様じゃよ」


『あのサイバースーツは?』


「ああ、プロトタイプを本格的に戦闘用へ改修していた奴じゃ。アレは単独で大多数の敵を相手にするための重野戦モデルじゃな――寺門君がアレで出たんじゃよ……」


『寺門さんって……あの戦術アドバイザーの?』


「ああ、今は治療カプセルに運ばれておるよ――それにしても、何とも珍しい客じゃな」


『ああ、それは――』


 と、ナオミと茂ことデンジダーに目配せをする。


「それよりも君も治療カプセルに入ってスーツを一旦研究ラボに運んでおいてくれ。敵はまた何時来るか分からんからな――」


『そう言えば皆は?』


「あっちはゴーサイバーが四人もおるんじゃ、大丈夫じゃろうて」


『だと良いんですが……』


 どうにも嫌な予感が拭えなかった。 

 だが古賀博士の言う事も一理あるため、言われた通りにする事にした。

 


 一方薫達は――



 Side 桃井 薫

 


 防衛隊のとある基地。

 そこで遭遇した敵は最悪だった。

 シュタールがいるが問題なのは噂に聞いた銀色の悪魔である。

 奴の実力は恐ろしい物だった。


『きゃああああああああああ!? あぁああ!! あぁああああああ!!』


『くぅううううう!!』


『皆!! あぁあああ!?』


 今迄の戦いが児戯だと思えるぐらい圧倒的な力で持って薫達は粉砕される。


「ハハハハハ!! 鉄十字軍最強の遺産、ジェノサイザーの力はどうかな? ゴーサイバーの諸君?」


 シュタールが得意げに高笑いを上げる。


 鉄十字軍。

 その名は薫も知っている。何せ達也の命恩人が壊滅させた組織の名だ。


 そしてジェノサイザーの事も――かの有名な侍、宮本 武蔵を語る上で欠かせない佐々木 小次郎と言う宿敵がいるように奴の存在もまたとても有名である。

 正確にはそのプロトタイプを回収、リユニオンの技術力で強化したらしい。その戦闘力はもう強いとか言う次元を越えている。最早怪物だとか悪魔だとかの領域だ。


 防衛隊の兵器は尽く通用せず、サイバージェットは攻撃により墜落、サイバータンクは離脱が間に合わずサイバージェットと運命を共にした。

 どうにか脱出出来た四人はそのまま基地の人間と共に戦闘を続行し、今に至る。


『あうぁ!?』


 薫の華奢な体が爆発で吹き飛ばされる。敵の攻撃で宙を舞うのはもう何度目だろうか。

 此方は相手のバリアを突破出来ず、録にダメージすら与えていないと言うのにもうボロボロだ。

 

 ――このままでは負けてしまう。


 そう思う至るに充分過ぎるぐらいに最悪な状況だ。

 基地の人間も懸命に此方を援護してくれている。しかし、バリアがダメージはおろか装甲に傷一つ付ける事すら許さず強烈な反撃で黙らせて行く。


『皆――集中攻撃で行くわよ』


『だけどまた弾かれるんじゃ――』


『芳香、今はもうそれしか方法は無い』


『やろう……私も皆を信じてるから!!』


 四人は幾度も阻まれた連続攻撃を再度敢行する。


『サイバーボウガン・マキシマム!!』


『サイバーランサー!!』


『サイバートンファー!!』


『エンジェリック・ブースト!! サイバーセイバー!!』


 それぞれが武器を掲げ、薫に至っては何度目かになるエンジェリック・ブーストを発動する。


「まだ分からんのか!?」

   

 しかしその連係攻撃は呆気なく終わった。

 突然ジェノサイザーの姿が消え、見失ったらと思ったら再び大爆発が起きる。

 

『いやぁああああああああああ!?』


『よ、芳香……クッ……』


『て、敵は何処に消えたの!?』


『マリアさん、上です!!』


『そんな……瞬間移動したとでも言うの!?』


 上空に浮かんだジェノサイザーがそこにいた。

 今度は両手を伸ばし電撃を放ってくる。


『キャァアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


『あああぁああああ……くっあああ……』


『み、みんな……ああああぁぁ!!』


『さ、三人とも……た、耐えるのよ……うっ!! あ、諦めちゃ駄目!! 耐え凌げば……き、きっとセイバーVが来てくれる筈だわ!!』


 電流を浴び、スーツ全身がくまなく焼け焦げ、内部爆発を引き起こしていく。

 そんな状況にも関わらずマリアは必至になって最後の希望であるセイバーVを使って勇気づけようとした。

 確かに敵は悪魔の如き強さだ。だがセイバーVが来てくれればきっとどうにかなる。

 そう思わせる事で戦う意志を折れさせないようにした。

 

「セイバーV? 残念だったな」


 だが現実は残酷だった。


『え?』


「セイバーVは既にこのジェノサイザーの手で倒されている」


 このシュタールの一言は死刑宣告の様に聞こえた。

 

 セイバーVが既に倒されている?


 確かにそう聞こえた。

 

「まぁ信じようが信じまいが別にどっちでもいい。この有り様ではどちらにしろ貴様達の命運も長くは無いだろうからな」


 勝利宣言をしたシュタールに合わせるように電撃が更に強まった。

 

「そ……そんな……既に倒されてたなんて……」


「芳香……しっかりして……こ、ここで諦めたら終わりだよ」


「麗子さんの言う通り……まだ負けた訳じゃ無いわ!!」


 苦悶の表情を浮かべ電流を全身に浴びながらも耐え続けるゴーサイバーの四人。

 その中で薫は―― 


(力が欲しい……皆を……仲間を助けられる力が欲しい!!)


 背中の羽がよりいっそう強く輝きはじめた。

 そして――電流を振り切るようにジェノサイザーの元へ飛び込んだ。

 

「なに!?」


 この状況下での反撃にシュタールは驚いた様子を見せる。

 薫はサイバーセイバーを突き出すように構え――ジェノサイザーに迫る。

 

『え?』


 が、一瞬にしてまたしても視界から消えた。

 

『う、後ろよ!!』


 マリアの叫び声が耳に入ったと思った途端、背中に強烈な衝撃が走り、地べたへ諸に激突した。

 何が何だか分からなかった。

 そして今度は再び背中へ衝撃が来る。とても重い――まるで巨大なハンマーで叩きつけられたようだ。


『かはっ!?』


 薫は目を見開き、口を開けて酸素と共に吐血する。

 その後も何度も何度も踏みつけられ、その度にか細い悲鳴を挙げる事になった。


『薫を離せぇええええええええええええええええええ!!』


『芳香!?』


『迂闊に近付いちゃ駄目――』


 サイバーランサーと共に芳香は電子クラフトを併用して突っ込む。

 しかし敵は動じた様子も見せず、薫を踏みつけたまま左手を突き出した。すると槍がバリアに阻まれてしまった――この結果が分かっていたから避ける必要などなかったのだ。 

 一瞬怯んだ隙を狙いすましたかのように右手で首根っこを掴み挙げる。


『あああああ………ガハッ!? アガッ!? ヒギャ!?』


 そして左手で思いっきり鳩尾目掛けてブン殴った。

 一度や二度ではなく何度も何度も拳を叩きつける。

 その度に芳香の体はくの字に折れ曲がる。


『うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!』


 普段クールな態度を崩さない彼女――佐々木 麗子は感情を露わにしてサイバートンファーを両手に構えながら飛び込む。

 しかし――この攻撃も虚しく終わる。何せまたしても突然姿を消したのだ。首を掴まれていた芳香はその場に倒れ込む。


 奴は何処だ?


 首をキョロキョロさせていると――

 

『あぁぁあああああああああああ!?』

 

 現れた場所は背後だった。

 高熱の手刀で背中を切り裂かれ、少し遅れて爆発を引き起こす。

 続いて行われたのは手刀による滅多切りだった。


『あぁ!! いやぁ!! や、やめろ!! うわぁあああああああああああ!?』

  

 スーツに切り傷が刻まれる度に爆発が引き起こされる。

 マリアは助けるためにサイバーボウガンを構えた。

 

『食らいなさい!!』


 ボウガンからビームが放たれる。

 しかしそれすらもバリアに防がれてしまった。

 これがキッカケになったのか攻撃をストップ、麗子もまたその場に倒れ、ジェノサイザーの目標はマリアになった。

 空中に飛び上がり、体の腹部からミサイルを発射する。何度も食らった小型ながら強力なミサイルだ。諸に直撃しなくても爆風だけで大ダメージを負ってしまう。


 それを難なく避けたと思った瞬間――


『キャアアアアアアアアアア!?』


 目から放たれた光線を諸に受けて大爆発を引き起こした。

 一撃で直撃した胸部周辺のスーツが、ただでさえボロボロだったにせよ吹き飛んでしまった。

 続けて大爆発が背後で起きてそのまま空中に投げ出されるように吹き飛ばされる。


 だがジェノサイザーの猛攻はこれで終わらなかった。

 そのままドロップキック気味に蹴りを叩き込む。

 

『アッ!?』


 白目を剥いてマリアは悶絶した。

 両脚蹴りの衝撃は柔らかい双乳を通して内部の器官――心臓や肺に多大なダメージを与えた。

 最早抵抗する余力すら無くなったマリアを地面に押しつけるように背中へ回り、両手両脚をそれぞれに対応した四肢でガッチリホールド、逆ロメロスペシャルの態勢でそのまま回転を行う。


 ジェノサイザーには強力な武装だけで無く、技が存在する。

 その名を真空地獄落とし。

 落下しながら回転による遠心力をプラスする事でその破壊力を増大させ、地面に叩き付ける必殺技である。


 リユニオンは過去のジェノサイザーの戦闘データーを基地から収拾し、それをプロトタイプジェノサイザーにインストールする事によって再現させる事に成功したのだ。


 哀れマリアはこのままアスファルトの地面に叩き付けられ、その命を落とす事になるのであろうか?


『間に合って!!』


 だがその技の態勢を薫がカット。エンジェリック・ブーストで得た飛翔能力により全力で体当たりを行い、ジェノサイザーを吹き飛ばし、マリアをキャッチした。

 そこまでは良かったのだが薫は膝を付いてしまう。

 彼女も大ダメージを受けているのだ。そこへ体に負担が掛かるエンジェリック・ブーストを発動させればこうなるのは当然の結果と言えるだろう。


『ッ!?』


 そして当然敵はその隙を見逃さない。

 ジェノサイザーは急降下しながら鉄拳を振り下ろす。

 横へ転がるようにして急いで回避。遅れてジェノサイザーのパンチが大地を揺らし、小さなクレーターが出来上がった。

 アスファルトの固い地面から拳を易々と引き抜くと直ぐさま頭部の目から光線を放つ。

 しかしソレを薫はエンジェリック・ブーストの飛行能力でどうにか回避するが再度大爆発が起きる。

 

(どうすればこの化け物に勝てるの!?)


 状況は最悪だ。

 自分以外は戦闘不能。

 敵は大幹部のシュタールとジェノサイザーの両名のみだがほぼ無傷。

 基地の人間も自分達の戦いに巻き込まれ、(主にジェノサイザーの攻撃の流れ弾)被害が出過ぎて生き残る事だけで精一杯になっている状況だ。


 つまり――

 

(達也君……ごめんなさい……私達……ここで死ぬかもしれない……)


 非情なまでの状況を冷静に分析し、薫は自分達の死を悟った。

 マリアを下ろし、サイバセイバーを手に取り、エンジェリック・ブーストを……最大限にまで出力を上げる。

 もう体の負担などどうだっていい。

 

(さようなら)  


 そしてジェノサイザーに向って飛び込んで行った。


(こうなるならせめて――)


 その数秒後。


 戦いの終わりを告げる眩い輝きが空をも照らし……それが終えると基地は嘘のように静寂へと包まれた。



 Side of 楠木 達也



 司令室で四人が行方不明になったと聞いた時は戦勝気分で何処か浮ついた自分の心が急激に不安の気持ちへと変わった。


「そんな……まさか……」


「事実だ……」


 あの強面の司令がまるで母親に叱られた子供のように辛そうな顔で視線を逸らしている。


「敵はやはり?」


 と、デンジターこと茂が尋ねる。


「ああ。ジェノサイザー……最後まで送られて来たデーターによると、恐らくは別固体をリユニオンが強化改修した物と思われる」


「まさかそんな遺産があったなんて……」 


「心当たりはあるのか?」


「いいえ――ですがプロトタイプか二号機を作っていた可能性は十分に考えられます。それをリユニオンが探し当てたのでしょう」


「そうか……」


「……達也君。何か言いたい事は無いかな?」


「――――せ―めれば」


「…………」


「黄山さんを――攻めれば――皆が戻ってくるんですか――」


 達也は全身を震わせ、涙を堪えながら声を絞り出した。

 そんな少年の姿を見て茂は両目を瞑り、小声で「そう……」とだけ答えた。


「しかし何故リユニオンは鉄十字軍の遺産を?」


「それは僕にも分かりません……リユニオンの勢力争いか、もしくは本当に偶然手に入れたのか……今はそれを論じるよりもどうやってあのジェノサイザーに対抗するかです」


「君では厳しいのか?」


「ええ。以前の戦いでは一対一でも五分五分でした。またジェノサイザーに搭載された感情回路の性質上、正々堂々の決闘を好むところがありましたがこのジェノサイザーはそう言った感情が搭載されてはいないように思われます。ですからどうしても貴方達の援護が必要不可欠と言う事になります」


「そうか――」


「ですが疑問があります」


 ここで戦術アドバイザーの寺門 幸男が話に割って入る。


「今のこの状況で送り込んでくれば我々は壊滅出来る筈です」


「確かにその通りだ。だが敵はそれをしてこない……他に何か目的があるのか、あるいは何か事情があるのか……」


 その時だった。

 

「司令、テレビの全周波数に映像が送られています!!」


「何!?」


「今モニターに映します」


 と、オペレーターが機器を動かし、司令室に映像が映し出される。


「そんな…………」


 その映像を見た時、達也は一瞬何も考えられなくなった。 

 

 場所は何処かの採石場であろう。

 そこにはリユニオンの大幹部シュタールを始めとした見覚えのある怪人達――確か一度倒した奴だ。見た事もない怪人もいる。

 だがそんな事よりも四つの十字架に貼りつけられている四人の女性に見覚えがあった。全員が傷だらけで傷が付いていない箇所を探すのが難しいぐらいにボロボロになっている。

 この四人を達也は見間違える筈が無かった。

 

 白墨 マリア。


 佐々木 麗子。


 神宮寺 芳香。


 桃井 薫。

 

 自分を除いたゴーサイバーのメンバーが全員囚われの身となっていたのだ。

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