ヒーローとは
Said of 白墨 マリア
スーツを身に纏った状態で二人は訓練場で模擬戦を行っていた。
それが遂さっきまでの話。
達也は医務室に運ばれていた。
と言うのも戦いその物があまりにもマリアの優勢で終わってしまったからだ。それも訓練の名を借りた懲罰と言えるような内容だ。
結果、達也は医務室のベッドの上で塞ぎ込んでいた。
(分かっていたつもりだけど予想以上に弱すぎるわ・・・・・・)
日頃のストレスやナオミとの一件での鬱憤をぶつけるようにマリアは達也にサイバーボウガンをぶつけたらこの結果である。
達也は何処ぞの女子高生戦隊のようにフルボッコされ、(「男のヒロピンとか誰得だよ」と言う理由でそのシーンはカットされ)医務室送りとなった。
シクシクと涙を漏らしながら布団を被るその姿を見詰めていく内に流石のマリアは「やりすぎちゃったかな?」と罪悪感が芽生えた。
「マリアさん。どうして僕レッドになってしまったんですか?」
「いや、それを聞かれても困るんだけど・・・・・・」
何故だろう。この少年の嘆きがとても哲学的な問い掛けに聞こえてしまった。
「もっと・・・・・・もっと優秀な人は幾らでもいるのにどうして僕なんかが・・・・・・うう」
「仕方ないでしょ。前に説明したけど一度装着されたら二度と装着車の変更は出来ないんだから」
「ちょっと待ってください」
「えっ!?」
バッと布団を払いのけながら突然起き上がる。
ちょっとビビッてしまい、体をビクッと震わせ半歩程下がってしまう。
「正規要員の人もちゃんと訓練してたんですよね?」
「え、ええそうよ?」
「その人も装着してたんですよね? だったらどうして僕達は装着する事が出来たんですか?」
少年の疑問は最もだ。
スーツの使用者は「二度と変更する事は出来ない」と話している。
そして本来着るべき筈の正規要員がいるのなら自分達のスーツを着て訓練をしていたと考えるのが筋だろう。
ならばあの時、『二度と装着者が変更する事が許されないスーツに』どうして自分達は装着できたのだ?
その事に達也は疑問を感じたのだ。
言わんとしている事を理解出来たマリアは「ああ、その事ね」と前置きして理由を語る。
「簡単に言えばあの時、正規の装着者が殺されたから再登録が可能になったからよ」
「え?」
「それを基地のマザーコンピューターが判断して――そして登録を抹消させた。新たな正規要員を迎えるためにね」
「マザーコンピューターが――判断した?」
「そう。死亡確認された時点でね――だから私も、あのナオミって言う人も装着する事が出来たの」
「基地の人間がどうとかは判断されたなかったんですか?」
「一時的にコマンダールームから権限を下げて貰っていたの。それに工藤司令はあのナオミって言う人にも手伝わせるつもりだったから誰でもお構いなしに装着できる状況だったの」
「つまり・・・・・・『あの時のみ』は『誰でも装着できる状態だった』と言う訳ですか?」
「そう言う事になるわね。本来ならば褒められた手段じゃないけれど、その御陰で私達もこの基地も大勢の人間が救われたわ」
「確かにナオミさんがいなかったら今頃僕も――」
「それどころか私達も死んでいたわね」
だから「憎みきれないんだけど」と小声で付け加える。
「ところでナオミさんはどうしてあそこまでゴーサイバーに詳しかったんですか?」
「それも問題なのよね――他の戦隊基地もそうだったけどリユニオンに情報が漏れていたみたいだし・・・・・・だけどゴーサイバーの機能にも詳しかったと言うのも・・・・・・」
「案外色仕掛けで情報を吸い出していたんじゃないですか」
恐らくはパッと頭の中で思い浮かんだのであろう一言を達也はマリアに告げる。
「「・・・・・・・・・・・・」」
ナオミ・ブレーデルの容姿を思い浮かべる二人。
((確かに彼女に迫られたら・・・・・・))と考えてしまう。
あの容姿と体の美女にハニートラップを仕掛けられたら十人に七、八人ぐらいは情報を漏らしてしまうかも知れない。
言葉を交わさずして二人は同じ結論に辿り着いた。
いや、まだ決まった訳ではないが可能性として充分ありえると思えてならなかった。
それからどれぐらいの間病室で沈黙を続けたのだろう。鼻腔を独特な薬品の匂いが満たすこの白い潔癖な空間の中で――
「それは考えても仕方ないわ」
「そ、そうですよね・・・・・・」
二人は不思議な一体感を感じながらこの話題を強制的に終わらせた。
何を考えていたのかほんのりと二人の顔が朱に染まっているが、あえてそれには触れないのが大人のマナーと言う物だ。
「おや? お邪魔だったかな?」
「え?」
突然唐突に入ってくる。白衣を着た人の良さそうなおじさんだ。
丸味を帯びた体のラインで正直健康そうな生活を送っているとは思えない体付きである。
眼鏡を掛けて坊主頭でニコニコしているこのおじさんは科学者と言うより、学生相手に科学を教えている先生みたいな雰囲気だ。
「貴方は――」
「どうも初めまして、私は古賀 電助――ゴーサイバーの開発者だ」
「ッ!?」
「驚いたかね?」
「驚いたも何も――」
「いや~一度レッドの性能をフルに引き出した少年の顔を拝んでみたかったんだ」
「え?」
☆
パタンと扉を閉じてマリアと電助博士は通路へと出る。
「はははは、思ったより優しそうな少年じゃないか」
「同時に戦いには不向きのように思えます」
「それで結構――戦いだけが人生ではない。戦いが終えても人生は続くのだから」
答えになっているのかどうなのか分からない何処か哲学的な匂いがする返事をした。
「そう言えば博士、ピンクのあの機能は?」
「ああ、各スーツ事にセイバーVの戦闘データーをより相応しい物がインストールされてあるがピンク、ヴァイオレットだけは特別だ」
「ヴァイオレットも?」
「ここだけの話しだが――アレには敵の大幹部のデーターが入力されている」
「え!?」
「鞭を使うリユニオンの大幹部など消去方で考えればスグに思い当たるだろ?」
「まさかスカーレットのデーターを!?」
その事実に驚愕するマリア。
「そうだ」
スカーレット。
先日基地を襲撃したシュタールと同格の女幹部。
セイバーV五人が一丸となっても苦戦を強いられたと言われている。が、まさかそのデーターがよりにもよってあの女のスーツにインストールされているとは思わなかった。
「驚くのも無理は無い。だが生存率向上に繋がるのなら何でも使うべきだと言う意見もあってね、その結果敵のデーターも採用されたのだよ」
「では私のスーツには?」
恐る恐るマリアは自分のスーツについても尋ねる。
「君はセイバーホワイトのデーターがインストールされている。他のスーツにもセイバーVや協力機関から提供された戦闘データー、稼働データーなどが搭載されている」
「それ以上に気になるのはピンクのあの翼についてですが」
「・・・・・・まさか年端も行かない女子高生が起動させるとは、一体どう言う運命が働いたのやら」
「アレは何なんですか?」
「エンジェリック・ブースト――セイバーVの中でピンクが見せた力を科学的に再現し、実装したいわゆる奥の手だよ。凄まじい力を発揮するがその反動は女子高生にはちと荷が重い・・・・・・念のためリミッターを掛けてあるがレッドのように意識と共鳴して外れる危険性がある」
「意識と・・・・・・共鳴?」
とても安定性を重視したゴーサイバーのコンセプトとは掛け離れたシステムのように聞こえた。
「セイバーVの開発にも関わったと言われるある財閥から提供された技術が導入されている。それが意識と共鳴する事で絶大な力を発揮する技術――」
「そんな技術が搭載されているんですか?」
「兵器として考えれば装着者の精神状態に戦闘能力が左右されるなど安定性に欠けて実用的ではない。だがこの技術を提供してくれた科学者はこうも言っていた。ヒーローは兵器であってはならない・・・・・・ね。その言葉を聞いて私はこの技術の導入を決意したよ」
「まさか先程仰っていたフルに性能を引き出していたとは?」
「ああ、その成果は君が目にした通りだ。リユニオンの大幹部を凌ぐ程の力を引き出すとは・・・・・・正規要員の人達は確かに優れた戦士だった。だが軍用のパワードスーツの延長線上の代物として扱っていたからか、中々その方面での成果は引き出せていなかった。それは君にも言える」
「申し訳ありません・・・・・・」
前回の戦いの結果を思い出しながらマリアは謝罪する。
「謝る事は無いさ。だが忘れないで欲しい。ゴーサイバーの真の力を引き出すには技術や運動神経だけではない、『非科学的な精神論』も必要なのだ」
「非科学的な・・・・・・精神論・・・・・・」
脳裏に焼き付けるようにマリアは呟いた。
Said of 楠木 達也
本当に平和な一時だったと今になって思う。
だが同時に自分でも無理をしていると感じていた。それも具体的に。何故なら薬を飲んでも頭痛や強い不安が日に日に強くなっていくのを感じたからだ。特に自分がサイバーレッドとして何時かまた実戦を経験しないといけないと思うと涙が出て来る。声を押し殺して泣いたのも一度や二度ではない。
特に自分のせいで人が、他の仲間が死んだら、ミスをして軽蔑されたらと思うと本当に夜も眠れない日が出て来る程だった。
それを知ってか知らずか無理矢理引っ張られる形で薫にサイバックパーク、もといゴーサイバーの秘密基地、サイバーベースへと案内される。
「どうして僕をそこまでして引っ張り出すんだ」
と、薫に尋ねてみた。
そしたら返って来た言葉は「昔の達也君に戻って欲しいから」であり、またゴーサイバーを続ける理由も「強くなって達也君を支えたいから」だそうだが随分身勝手な理由だ。つまり過去の自分に戻って欲しいらしい。
もうヒーローに憧れてはいないと言うのにまだ中学時代の達也がイジメられていた過去を見て見ぬフリをしていた罪を気にしているようだ。
達也は気にしてはいない――と言えば嘘になる。それどころか最近は段々とその態度が不愉快に感じて「余計なお世話だ」と言う気持ちが湧いて来ている。しかし彼女の気持ちも分からないでもないのでグッと堪えた。
ここで他のメンバーの戦う理由について考察する。
セミロングのツーテル―ヘアーが特徴で猫目の気が強そうな男勝りな女の子、神宮寺 芳香は・・・・・・分からない。彼女はゴーサイバーとして戦うのを嫌がっているようだがそれでも通い続けている。
何だかんだ言って皆が心配なのだろうと達也は推測する。形は違えど自分も似たような理屈で動いている達也なら分かる。
女子に持てそうでバレー部やバスケ部のエースになれそうな程に背丈に恵まれた宝塚男優系美女、佐々木 麗子は彼女なりの信念に基づいて行動しているようだがあえて達也は触れなかった。
長い黒髪に優しそうな笑みと綺麗な顔立ちが印象に残る白墨 マリアは遠くの昔に形は違えど戦う覚悟を決めているのだろうと思う。
何せ彼女は常にビームガンを所持し、そして達也達を救ってくれた女性だ。
きっと平凡な少年少女である自分とは考えられないぐらいの覚悟があるのだろうと思う。
一人でいる時の不安、学校でヒーロー扱いされる自分、基地でリハビリを受けながら厳しい訓練に身を投じる彼女達を眺める日々。
平和ではあるが達也は期待と不安がどんどん膨れあがり、日が経つに連れて気がおかしくなっていくのを感じた。
余命が残り僅かと申告された患者とか、戦場に向う前の兵士の気持ちは今の自分とどう違うのだろうか? そんな思考を働かせながら今日も日常と非日常を行き来する。
そして――
幸運だったのか、不幸だったのか、そんな日々は長くは続かなかった。
あのサイバックパークで経験した出来事と同じく、突然災害が起きたような唐突さだった。町になんと戦闘員を伴って怪人が現れたらしい。
しかも授業中にだった。
すぐにゴーサイバーの出動要請が掛り達也と三人の少女は基地へ急行――せず、運動場へ着陸した大型輸送機サイバージェッターへ乗り込む。超科学技術を導入したこの飛行機は垂直離着陸能力を備えており、また飛行動力に電子クラフトを採用する事でジェット戦闘機よりも静かな離着陸を可能としていた。
まさに超科学戦隊に相応しい乗り物である。
生徒や教師から大歓声と共に送り出されたが達也は不安で不安でしかたなかった。
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