第一章:戦いの始まり

奇跡の生還――そして時は流れ――

(あれ・・・・・・僕は・・・・・・)


 気が付くと達也はベッドの上だった。


 身体には何ともない。


 破顔した両親がキツイぐらいに強く抱きしめる。


(なんで・・・・・・)


 生を得た喜びよりも達也は疑問に思った。


(なんで僕は・・・・・・生きてる?)


 確かに自分は死んだ筈である。


 奇跡的に生きていたとしても殆ど無傷と言うのもおかしい話だ。


 その理由を知った時、彼は生まれて初めて自分でも押さえつけられない程の憎悪が湧き出した。



 なんと自殺を決行したその日はヒーローの講演会だったらしい。




 そして学校に来ていたヒーローが飛び降りた自分を偶然助け出したと言うのだ。


(どうして――今頃になってっっっ!!)

 

 達也は感謝よりも怒りが湧いた。 



 今頃になってどうして自分を助けた?

 どうしてもっと早く助けてくれなかった?

 そして運悪く見舞いに来たヒーローが笑顔と共にやって来たのを見て達也は殴りかかった。


「ああああああああああああああああああああああああ!!」


 殴って殴って殴って殴って・・・・・・拳から血が出てもひたすら狂ったように殴り続けた。


 奇妙な事にそのヒーローはただずっと達也の拳を受け止め続けていた。


 もしあの時、看護師達に止められていなかったらそのまま殺していたかも知れない。 



 それから達也の人生は変わった。



 まず両親の態度が以前よりも優しくなり、そして学校には通わせずフリースクールや自宅学習などを認めてくれた。


 また心療内科に通う事になった。やはりと言うべきか達也は精神的な病気になっていて一般的な薬物投与や暴露療法などを受ける事になった。


 そして一番の変化だが自分の名前は挙げられはしなかったがこの事件は大きな話題となり、連鎖的に自分が受けたいじめ問題も様々なメディアで取り上げられた。


 中でも一番驚いたのはされるがままに殴られ続けたあのヒーローが達也を許してくれたらしい事だった。


 だからと言ってヒーローに対する認識は以前と変わらぬまま――いや、それどころか自分が行った行為とこれまでの行為とが心の中でギクシャクと絡まり合い、達也はより複雑な感情を持つようになる。


 それ以後、達也は自宅の部屋で毎日を過ごすようになってから以前よりも深く、暗い雰囲気を身に纏うようになった。



 そして時は流れ――



 サイバックパーク

 またの名を最先端科学技術研究所。


 外宇宙、異世界から得られた技術を解析、研究し、実用化に向けて日夜研究が行われている場所だ。


 同時に一般の方々へお披露目するアミューズメント施設としての顔を持ち、休日や夏冬などの長期休み期間には大勢の客で賑わう。


 今日は社会科見学として高校生達が集まって来ていた。


 その名を華特高校。

 今風な開放的な校風が特徴であり、これと言った悪目立ちする噂も聞かず、自然と入学生が多く集まる人気校である。


 だからと言って集合前の整列などをやらされるのは一緒だ。


 強い日差しがジリジリと体力を奪う中、微熱のホットプレートと化している硬い地面の上で並ばされるのは生徒達にとって朝の朝礼並に苦痛だった。


 それでも賑やかな雰囲気を発散しながら騒げるのは彼達の若々しい活力を充分に現わしている。


 その中で一人だけポツリと暗い雰囲気の男子生徒、楠木 達也がいた。


(休めば良かった・・・・・・)


 と、一人楠木 達也は思う。


 達也は社会科見学や修学旅行、遠足などで昔から良い思い出は殆ど無かった。


 訳の分らない因縁をつけられて不良にボコボコにされた事もあるし、修学旅行で親から貰った金を旅行先で無理矢理巻き上げられた事もあった。だから今回の社会科見学も正直気が進まなかった。


(学校近所なのにどうしてバスを使って移動するんだ? アレか? 学校の資金自慢か?)


 そもそもこのサイバックパークはわざわざバスを使って移動する程の距離もなく、行こうと思えば何時でも行ける場所だ。小学生でもその気になれば自転車を使わなくても歩きでだっていけるだろう。


(今回も仮病を使って休んで図書館でバックれるつもりだったけど――)


 その悪巧みを防いだのは高校時代になってから急にまた幼馴染面して来た元幼馴染と熱血教師気取りの女教師(この手の教師は大概イジメなどの問題をややこしくするので嫌いだった)、そして親に引っ張られる形でここまで来てしまった。


 周りでは達也の事を噂しているがそれは当然だ。


 なにせ入学式と一学期の最初の頃ぐらいしか顔を出していないのだ。


 特に同じ班になった元幼馴染達はと言うと――


「ねえ、アレが話していた楠木君?」


「うん・・・・・・先生と楠木君のお母さんに頼まれてね」


「うわ~災難ね~」


 などと話しているのが聞えた。


 何となく予想していたが自分は厄介者扱いらしい。


 元幼馴染も困ったような顔をしている。


 その周囲にいる女の子達もだ。


 アニメのツンデレキャラっぽいセミロング+ツインテールヘアー(ツーサイドアップと言う)が特徴な勝ち気で吊り目の男勝りそうな女の子。

 そしてやたら背が高く中性的な男性ビジュアル系アイドルっぽい顔立ちの紫髪の少女も差異はあれど迷惑そうな顔をしている。


 この納馴染みの周りにいる女の子達の名前は知らない。


 中学時代に親しい中の友人から見て見ぬフリをされた経験や無理矢理告白された時に返された返事のショックで覚える気力も関わって仲良くなろうなどとは湧かなかった。だから名前は覚えようとは思わなかった。


 けれども唯一覚えているのがこの幼馴染――ボブカットで可愛らしい顔をしていて、何故かハートのブローチがついたヘアピンを前髪左側につけているのが特徴の少女、桃井 薫の名前だけは覚えていた。


(嫌なら連れて来なければいいのに・・・・・・)


 心底達也はそう思った。


 それに――周りの男子の視線やヒソヒソ話が気になる。


 わざとか意識的にやっているのか「女子と同じ班になれてラッキーだよな」とか「モテモテじゃん」などと中傷や皮肉が込められたような声が聞こえてくる。


 女の負の部分を知っている達也からすればふざけんなよと言ってやりたかった。


 女子のイジメッ子は特定の面においては男子よりも残虐で冷酷だ。その一部始終を見た事があるから分かる。女は見た目で判断してはいけない。その可愛い見た目の裏にどんな魔物が潜んでいるか分かった物ではない。


『それではクラス順に館内へ入って下さい』

 

 などと考えてる間に拡声器越しから届く教師の声で社会科見学が始まる。


 次々と順番でクラスの人間が館内へと足を踏み入れていき、そして達也達の番が来た。



(帰りてぇ・・・・・・)


 初っ端から社会科見学は最悪なムードだった。

 特に同じ班にいる見るからに強気そうな、「アンタバカァ?」が口癖そうなテンプレツンデレアニメキャラみたいな女がやたら食って掛かってくる。


 曰く――「そんなに嫌なら来なければいいのに」とか「言いたい事があるんならハッキリ言いなさい」とか「どうしてこんな奴と同じ班なのよ」と――とにかく達也の存在が嫌で嫌で仕方が無い様子だった。


「よ、芳香ちゃん・・・・・・」


 幼馴染の桃井 薫によるとこの女の名前は芳香と言うらしい。

 とても気が強い性格らしく、本人の前でズバズバと本音を叩き付けてくる。


 そして宝塚男優染みた背の高い紫髪の女性徒は困ったようにこの争いを傍観し、薫は芳香を宥めようと必死だった。


 ぶっちゃけこの班だけ社会科見学を楽しむどころではない状況に陥っていた。

 他のクラスメイトもサイバックパークの施設そっちのけで遠巻きに眺めている。


(・・・・・・仕方無いよね)


 達也は班から距離を取った。


「ちょっと、達也君!?」


 と馴れ馴れしく納馴染みの薫が呼び止めようとする。

 だが無情にも達也は無視した。

 その後も後ろから何度か叫び声が耳に入ったが全部振り払いながら歩を進める。


(やっぱり来なければ良かった・・・・・・)


 達也は深く後悔しながらもサイバックパークを一人でうろつく。


 空調が効いて涼しい華やかな館内で彷徨う彼はとても浮いている。まるで幼い子供が一人遊園地を彷徨っているみたいだった。


 だが達也は今自分に置かれた状況を虚しいと思うよりどうやって暇を潰そうかと言う部分に思考を置いていた。


 携帯ゲーム機どころか*携帯電話すら持ってない彼は人目が付かないトイレでゲームでもやって暇を潰す事も出来ない。(*高校生にもなって達也が携帯電話を持ってないのは中学時代に何度も壊されたりして持つのがウンザリしたから)


 教師の目を気にしながらその辺をブラブラと彷徨う達也。


 万が一バレて親に連絡されても大丈夫だ。イジメを受けている事を知って不登校になった辺りから親は実の親でありながらまるで世話焼きの家政婦のようになっている。だからキツくは言われないだろうと達也は自信を持って結論付けた。


(さて・・・・・・どうしようか・・・・・・)


 普段の生活で録に運動もしていないため、ブラブラとこうして歩くのも疲れる。

 集合時間までトイレにでも引き籠もっていようかなとか考えていた時だった。


「ちょっと君? 大丈夫?」


「へ?」


 突然呼びかけられて達也は驚愕した。何せ引き籠もりが生活が長いと他人どころか身内にすら話をする機会などほぼないからだ。


 声からして大人の女性の声。顔を上げるとそこには白衣を着た長い黒髪の、優しそうなお姉さんがいた。


 ブラウスから大きな胸の膨らみが突き上げ、硬そうなタイトスカートから伸びる美脚をハイヒールが煌びやかに彩っている。


 とても綺麗で魅力的な大人の女性――に突然呼び止められ達也は戸惑いながらも言葉を紡ぐ。 


「え・・・・・・と、その、僕は大丈夫です」


「全然そうには見えないわ」


「だから大丈夫ですから」


「大丈夫な子はそんな顔しないわよ。どうしたの?」


「・・・・・・・・・・・・」(自分そんな酷い顔してるのかな?)


 などと不安に思うと同時に厄介な大人に絡まれたと思った。


「君今日の社会科見学で来た子よね? 私は白墨マリア(シラズミ マリア)。このサイバックパークで働いている職員よ。君の名前は?」


 と、見ず知らずの筈の他人に突然自己紹介を始める。


 それに釣られるようにして達也も――


「楠木 達也・・・・・・」


 と名を名乗った。


 すると「楠木君か・・・・・・」と微笑みかけてくれた。


「見たところ他の生徒達は班行動しているみたいだけど君はどうして一人なのかしら?」


「それは――」


 どう説明すべきかと達也は悩んだ時――


「あ、いた!! 達也君、班行動なんだから勝手に一人で行かないでよ!!」


 と、後ろから幼馴染の薫がやって来る。

 背が高い女性徒もあの気が強いツーテルの少女、芳香も一緒で腕を組み、「フン」っとそっぽ向いている。


 思わず達也は「はぁ」・・・・・・息を吐き出した。 


「あまり薫を困らせちゃダメだよ?」


 と、背の高い中性的な顔立ちの女性徒が保母さんのように優しく語りかける。


「え~と・・・・・・」(んな事言われてもなぁ)


 などと思ってると「佐々木 麗子。麗子でいいよ」と自己紹介された。

 勝手に「名前が分からなくて困ってると」勘違いしているようだ。

 ともかく名前で謝る事にした。

 

 心の中で愚痴りまくろうがコミュ症ニートにとって相手へ強気に出る度胸もない。

 そんな事をすれば中学時代の時のように話がややこしくなる。


 なので素直に達也は「ご、ごめんなさい・・・・・・麗子・・・・・・さん」と謝る。


 無理矢理外に引っ張り出されたニートなんてこんなもんである。 


「はぁ~たく。折角の楽しい社会科見学が台無しだわ。楽しむ暇もありゃしない」


「芳香ちゃん・・・・・・」


「薫も薫よ。面倒味が良すぎるよ。嫌なら好きにさせとけばいいじゃない」


「芳香ちゃん!!」


 と、大きい声で芳香の愚痴を止める。

 ヤンキー相手でも同じような態度を取りそうな彼女も身体を震わせて目を丸く見開いた。

 周囲で社会科見学を楽しんでいた生徒も一斉に視線を向けてくる。


「・・・・・・大体だけど事情は分ったわ」


 班の険悪なムードを察したマリアは両の瞼を閉じて大きく息を吐いた。


「すいません。ここの職員の方ですか?」


「あ、はい」


 ここで唐突に新たな第三者がやって来る。


 その第三者を見た時、達也は自分の目を疑った。

 周りの人間全てが――見学に付き添っていた学校の教職員や見学していた生徒も、薫も芳香も冷子も質問されたマリアと同じ職員でさえもだ。


(なん・・・・・・だ・・・・・・この人は・・・・・・)


 何故ならその人はありえない程に綺麗で美しく、そして世の男性の理想像を体現した妖艶さを持つムチムチボインでブロンドポニーテールヘアーの外国人女性だったのだから。ピッチリとした黒いライダースーツを着ているがジッパーが閉めきらず、マリアとは比較にならない程に巨大すぎる爆乳の谷間を惜しげもなく空調が効いた外気へ晒し出していた。


(なんだこの人は!? 僕は遂に精神がおかしくなって幻覚でも見始めたか!? ギャルゲーの世界から飛び出して来た人か何かか!?)


 もし彼女が某国から送り込まれた女スパイだと言われたら達也達は信じただろう。

 彼女が醸し出すセクシーかつ雌豹な雰囲気と仕事できます的なオーラ―感に衣装とかがマッチしているせいかもしれない。

 

(いやいや自分でそう思っといてどうしてスパイ!? アメコミの女スパイヒーローとかやたら有名な公安のサイボーグ少佐とかを連想したかもだけど――)


 だけどこんな設定はありえないだろうと達也は思う。

 スパイに求められる素質と言うのは周囲に溶け込む能力だ。

 こんな人目を引く容姿を持つ女性がどうして、しかも一人でこの社会科見学真っ最中の最先端科学お披露目の場であるアミューズメントパークで何を探ろうと言うのだ――とラノベ知識を引っ張りながら勝手にそう納得する。


(しかしこんな爆乳――いや超乳? の綺麗な人が一人何してるんだろうか?)


 と言う疑問が湧き出た。


「この場所が何処か知りたいんですけど・・・・・・」  


 そう謎の金髪爆乳美女に尋ねられてマリアは「は、はい!!」と正気に戻った。


「え~とこの場所って確か関係者以外立ち入り禁止の」


「そこではなくてこの施設ですけど」


「ああ、そこは確か・・・・・・」


 誰かと待ち合わせでもしているのか、どうやら道を聞きに来たらしい。

 その間達也の瞳はずっとこの二人の美女から目が離せないでいた。


「ちょっと楠木君? 何じっと見てるの?」


「え? ああ・・・・・・それは・・・・・・」


 と芳香がムスッと顔を顰めながら覗き込んでくる。


「ふふっ、ボウヤにちょっと刺激が強過ぎたかしら」


 此方の会話に耳が入ったのか外国人美女はタプン、タプンと片腕へ乗せるように人の顔以上の厚みと幅を持つボリューム満点の胸を弾ませ、赤い口紅が塗られたリップを吊り上げる。


「私の名前はナオミ・ブレーデル。縁が会ったらまた会いましょう」


 と名乗りを上げて彼女は立ち去ろうとした。


 達也は後々になって思う事になる。


 ――この六人が集まったのは単なる偶然ではなく何かの運命ではないかと。


 まるであの事件が起きる前触れだったのではないかと。


 そう、何の予兆もなく起きたあの出来事が起きたのはこの後だった。


 大地震には何らかの前兆があると言うがそれを意識するのは大概その後になってからであり、気付いた時には突然始まって何もかもが後の祭りになっているように――

 この事件もあらゆる災害や事件と共通して当事者にとっては突然の出来事だった。


「キャアアアアアアアアアア!?」


「何この爆発音!?」


「地震!?」


 施設全体が揺れる。それも一度や二度ではない。


 まるでこの施設を崩壊に導くように何度も何度も揺れが起き、社会科見学に来ていた生徒達が悲鳴を上げる。


 達也も同じ気持ちだった。


「な、何だこいつら!?」


「キャー!!」


「だ、誰か助けて!!」


 状況が分らない。


 何もかもが突然過ぎて思考が整理出来ないでいた。


「そんな・・・・・・こんな計画聞いてないわ」


「計画?」


 ポツリとナオミと名乗った美女の計画と言うワードに反応するマリア。


「こ、こいつらは!?」


 ナオミの言う計画が何だったのか達也が知るのはちょっと先の話である。   


 達也達はこの館内に現れた異形の集団に目がいった。

 その集団は漆黒のタイツ、銀色のグローブ、ブーツを身に付け、ベルトを巻き、黄色く鈍い光りを放つ鉄仮面に身を包んでいた。    

 それが館内の職員や教職員――生徒だろうと無差別に襲撃している。


「アレってテレビでやってたリユニオンじゃ!?」


「どうしてこんな所に!?」


 薫の取り巻き二人が皆の気持ちを代弁してくれているようだった。


 リユニオンとは正義の味方と悪の勢力が死力を尽くした最終戦争、NEW YEAR WARの後に早くも誕生した侵略者達である。


 現在対応しているのは現在唯一の正義の戦隊、セイバーVと呼ばれる少女達だと聞いていた。


 こいつらはその尖兵、平たく言えば戦闘員と言う奴だ。


「セイバーVは何をやってるの!?」


 ヒステリック気味に芳香が叫ぶ。それが不味かったのか戦闘員の何名かが不気味な眼光を発しながら迫り来る。


(マズイ――)


 と達也は思ったが体が動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のように。


 ふとこの時連想したのは死の恐怖だった。

 そして何故か初めて屋上から飛び降りて自殺しようとした時を思い出した。

 あの時は恐怖を感じなかったのに――何故だろうかと?

 恐怖に疑問に感じた。


「あまり射撃に自信はないけど!!」


「まあ仕方ないわね――ここからはアドリブで行きましょうか♪」


 この危機を脱してくれたのはナオミとマリアだった。

 二人とも何処から取り出したのか銃らしき得物を握り締め、好き勝手に暴れ回る戦闘員に銃撃を放つ。


 ピカッと閃光が光ると戦闘員は爆発と共に吹き飛ばされた。


「貴方もビームガンを・・・・・・何者なの?」


「その言葉そっくりそのまま返すわ。ただの職員にしては中々いい腕前してるわね♪」

 

 マリアの疑問をナオミは平然と受け流して質問を返す


 達也達は二人をただ呆然と眺めていた。


 とここでアラームが鳴り響く。こんな時に誰が? と思ったらマリアは腕に巻き付けていた腕時計を操作すると腕時計の真上にディスプレイが現れる。

 どうやら腕時計ではなく、一種のハイテク通信アイテムだったらしい。


「あ、はい。白墨 マリアです・・・・・・なんですって!? あ、はい・・・・・・分りました。けど一般市民の避難はどうすれば・・・・・・」


「立て込んでるところ悪いけど、新手が来るのにそう時間は掛からないわ」


 何処かと連絡を取っているらしいマリアを守るように光線銃を構え、周囲を軽快するナオミ。

 初めて抱いた印象のような、まるでアクション映画に出て来るクールな女スパイみたいでとても様になっている。


「じゃあどうすれば?」


「相談している暇は無いみたいよ!!」


 仲間を倒されたせいだろうか、周囲を襲ってきた戦闘員達が一斉に此方へ視界を向けて襲いかかってくる。


 ナオミとマリアが四方八方からやって来る敵を次々と倒してはいるがまるでゾンビ映画のように次々と何処からともなく集団となってやって来る。


 今のところ純忠に撃退しているが何時まで持ち堪えられるか――


「死にたくなかったら私に付いて来なさい!!」


 意外にもこの施設には関係の無い筈であるナオミが先導する。


 マリアは「何処へ!?」と皆を代表するように尋ねる。


「この施設には極秘のエリアがあるでしょ!! そこに逃げ込めば――」


「しかし――」


『彼女の言う通りにするんだ』


 腕時計の通信アイテムから連絡していた相手の人物――威厳ありそうな男の声だ――が極秘エリアに行く許可を出した。


『出来る限りで構わん!! 避難者と共に逃げ込んでくれ!!』


「あら、話が早くて助かるわ」


「ですけど」


『この状況でもう機密も何も無いだろう。言う通りにしてくれ』


「りょ、了解――」


 そしてマリアは腕時計から表示したモニターを閉じて達也と薫に顔を向け。


「聞いての通りよ。私達に付いて来て!!」


 続いて大声でパニックになっている生徒や教師、一般客に呼びかける。


「皆さん!! 今から私達の言う通りに避難してください!!」


 ナオミが最後尾に。

 マリアが先導し、二人に挟まれる形で達也達含めた人々は安全を求めて避難する。

 

 運命の出会いは近い――

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