第6話

「ミシャル様をお部屋にご案内してまいりました。」

「……ああ」


腑に落ちない顔を隠す事なくリュークは、クロディクスの部屋に入ってくるなり告げた。

ミシャルが何故ここに留まることになったのか聞きたそうな表情を浮かべている。

相談もなく物事を決めるクロディクスに文句を言うつもりはないものの、納得が出来ないという表情を浮かべていた。

共に過ごして随分立ったというのに、リュークはクロディクスの気まぐれに困惑しているようだった。



先ほどリュークに案内させたミシャルへの感想は素朴な何処にでも居そうな令嬢だった。

それは部屋を案内したリュークも同じ感想らしい。


本当に伯爵令嬢かと思うほど使い古されたドレスを着ていたミシャルは、どう見ても特別な物を持っているとは思えなかった。

むしろ外に出る事に対して身ぎれいにした様子もないミシャルは平民よりも酷い姿をしていた。


何か特別な所も見受けられないミシャルは、急拵えで案内した地味な部屋にも文句すら言わずに喜んでいた。


薔薇の花束に触れる事もなく、眩しいものを見るように喜び何度も礼を言っていたミシャルは共に過ごせは過ごすほど凡人な年頃の娘だった。


とても伯爵令嬢とは信じられないミシャルにリュークは不信感を募らせただけだったらしく不満顔で報告をするリュークにクロディクスは答えてやることにした。


「彼女は気配なく私の結界を通り抜けた。それだけじゃない。彼女の瞳はこの国に1人としていない黒色に見えた。今はそれだけで充分ここに止めたい理由にならないか?」


クロディクスはリュークの無礼な態度を気にする事なく説明してやった。

淡々と事実だけを告げれば納得したようすのリュークはそれ以上言葉にする事はやめたらしかった。


「こっちの方はいい、ミシャルを迎える準備をしておいて」

「御意」


開けていた窓から影がクロディクスの視界を横切り、リュークの肩に移った。

羽を広げればゆうに2mは超える大きさの烏の重さでリュークはバランスを崩しそうになっていた。


「主様が言ってるんだ、素直に従っていろ」

烏から咎める声と共に頭に容赦なく羽で頭を叩かれて、リュークは烏とクロディクスの前なのを忘れて口論を始めた。


「あのクソ悪魔め!」

リュークが口汚く罵ると、烏は楽しそうに笑ってクロディクスの肩に収まった。

そこでようやくリュークは、この場所がクロディクス書斎である事を思いだしたようだった。


「んんっ」


今更ながら取り繕ってリュークは、ミシャルを迎える準備についてクロディクスに問いかけてきた。


「お食事はいかがなさいますか?」


使用人が居ない以上食事の用意などもリュークの仕事の一つでもある。

普段は食事をほとんど摂らないクロディクスだが、ミシャルがいる手前そんなわけにはいかないだろうと配慮したリュークの問いに頷いて告げた。


「彼女の望むの物を用意して私と共に食事を摂るように伝えてくれ」

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