4章 ピクニック

39 完全武装は何を意味するのか

東部方面攻撃隊のピクニックならぬ作戦当日。


「展開!」

 ハクシュウの号令が下された。


「ラジャー!」


 ハクシュウのチームを除き、四つのチームが一斉に散っていく。

 ンドペキも指定された地点に向かった。かつて大聖堂があった広場である。

 移動中に、マシンに執拗に追いすがられたが、それを一撃すると、大聖堂までほんの数分で到着した。


 次々に各チームがそれぞれのポイントに到着した旨の連絡が入ってくる。

「進め!」

 間をおかず、ハクシュウの命令が下される。



 事前に、全隊員に作戦の目的と行動の詳細について、ハクシュウから説明がなされてあった。

 目標地点は、アップット高原の最高峰であるザイキル稜から南北に伸びる稜線を十キロメートル越えた地点。

 そこまでは隊列を維持して進む。

 その時点で集合するか、そのままの形で引き返すか、ハクシュウから命令が下されることになっていた。


 目的は、サリの何らかの痕跡を探すこと。

 敵が襲ってきても、攻撃は最小限に留め、捜索に重点を置くこと。

 目標地点到着予定時刻は、一時間五十四分後の午前十時三十三分。

 進軍は、平均時速九十キロのやや遅いスピード、と指定されていた。


 隊列はハクシュウのチームを中心に横一列。

 各チームの間隔は二キロメートル。

 各チームは伍長を先頭に雁行。

 補給部隊のみが雁行の最後尾、先頭の真後ろにつけている。




 ンドペキのチームは順調に進んでいた。

 他のチームも概ね指定スピードを保っている。

 わずらわしいマシンがいても、それを刺激しないように各自が避けながら、都市の廃墟を出た。

 

 原野が広がる。

 あいにく空はどんより曇り、大気に充満する有毒なガス濃度のムラが視認できそうだ。

 そして今にも雨が降り出しそうだった。



 ンドペキは、少し緊張していた。

 ハクシュウの意図が明確ではなかった。

 サリの捜索を名目にした隊列訓練にもかかわらず、ハクシュウは完全武装を指示していたからである。



 あの日、ンドペキはサリを葬ろうとしていた。

 その意思は、当局には感知されていたかもしれない。しかし、隊長は知りえないはず。

 当局から何らかの情報がハクシュウにもたらされたのだろうか。


 完全武装。

 それは何を意味するのか……。


 隊列はハクシュウを中心に、左翼にンドペキ、スジーウォン。右翼にコリネルス、パキトポーク。

 ハクシュウとスジーウォンに挟まれつつ疾駆しながら、ンドペキは、まさかという思いを抱いていた。





 まもなく川を渡ることになる。

 大西洋に注ぐ大河、シリー川の支流。

 本流のシリー川はアップット高原の向こう側を東に向かって流れ下っている。

 ただここも支流とはいえ、川幅は二キロほどあり、流れも速い。

 水面の上を飛行するため濡れることはないが、土や岩盤とは違って反発係数が異なるため、体のバランスは取りにくい。



 ん!


 ゴーグルに白い点が光った。


 真正面。

 距離にして八百メートル、川面上。

 誰かいる!

 マシンではない!


 白い点が光ったということは人間か、それに近い動物。

 一瞬の後に、その者が視認できた。

 人間だ!

 どこの。

 兵士の装束ではないが武装はしている!



 ハクシュウかスジーウォンのチームの誰かか!

 やはり!

 俺を!


 そんな考えが頭に浮かび、ンドペキは銃を構えた。

 人間を撃つことに一瞬のためらいがあった。

 その刹那、脳に滑り込んできた言葉。


「撃つな」


 女の声だった。

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