第三章 未来新技術研究機構編
第41話
「カツサンドはいかがですか~。カツサンドは~」
「カツサンド1つください!」
私はワゴンカーを押した女性に注文をする。彼女はワゴンから1つカツサンドを取り出し、手渡した。
「ありがとうございますっ」
私はお金を渡すと座席についているミニデスクをおろし、早速フタを止めているセロテープをはがした。
カツサンドは肉厚だが、パンで挟まれているため手軽に食べることができる。
お昼はたくさん食べたくないが、そこそこお腹を膨らませたい、という人にピッタリなランチメニューである。
新幹線内では駅弁なども魅力的だが、こういった軽食も私は好きだった。
付属のお手拭きを取り出すと、カツサンドに手を伸ばす前に手をふいた。
「……いただきますっ」
車内なので小声でつぶやくと、手前のカツサンドを掴んだ。
挟んでいるパンは焼かれていないため、ふわふわした感触だ。パンくずが落ちる心配もない。
最初の一口目は大口で齧り付く。
柔らかいヒレカツの甘みが口いっぱいに広がり、美味しい。パンとカツの相性もバッチリだ。
二口目以降も大きな口でパクパク食べ進めていく。
あっという間に1個目を食べ終えた私は、リュックサックの横のポケットに入れていたペットボトルに手を伸ばす。
私は新幹線の時間を楽しむために飲み物も買っておいた。私はペットボトルのフタを開けると、お茶を口に流し込む。
「ん~っ」
冷えたお茶は食道を通り抜ける感覚が心地よかった。ホッと一息つくと、喉を潤した私はすぐに2個目に手を伸ばすのだった。
2個目もあっという間に食べ終えてしまった。
お茶を飲むため、一旦手拭きで手を拭く。3個目にも手を伸ばすも、
「……って、もうないじゃん」
ぎゅっと詰め込まれているため、3個入りに見えるが、このカツサンドは2個入りだ。
お昼は多くなくてもいいが、これでは少し物足りないな。
スマホで時刻を確認すると次の目的の到着駅まであと数分だった。追加で食べる時間はない。
「まあ、いっか」
私はミニデスクを元の位置に戻すと、座席のリクライニングを元に戻した。
「――はお乗り換えです。今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございました――」
そろそろ到着のようだ。私はリクライニングしていた座席を元に戻し、テーブルに出していた荷物をまとめ、降りる準備を始める。
駅に近づき、新幹線のスピードが落ち始めると、私はリュックを背負い出口を目指した。私と同じ駅で降りるほかの乗客も席を立ち始めた。
「ドアが開きます。お降りの時は足元にご注意ください」
東京発岡山駅行きのJR新幹線ひかり501号を出る。駅のホームへと降りると、すでに多くの乗客であふれかえっていた。駅のホームを目指して移動するお客さんの後をついて行って出口の階段を目指す。並びながら階段を降りていると新幹線の発車を知らせるアナウンスとブザーが鳴り響いた――。
私はスマホを取り出すと、さっそく次の目的地までの道を確認することにした。
改札を抜けて駅構内から出ると、冷えていた新幹線の車内と違い、生ぬるい風が頬に当たった。
「やっと着いたぁ」
荷物を背負っていて肩が痛い。一度荷物を下ろし背伸びをして体をほぐすと、スマホのアプリで目的地を確認する。中心街までは駅の北口から出ているバスで行けそうだ。
バスの発車時刻は数分後だったので、搭乗口まで急いだ。
数日前――。
伊坂さんが運転する車で、職員の南さんと3人で未来新技術研究機構に来ていた。
彼らは、私とヒナが組織の一員の田中から逃げた時に川に沈んでいた私のアーカロイドを回収していた。
その報告をするため、私に接触してきたのだ。私はその話を聞いてすぐに未来新技術研究機構に行きたい、と思った。だが、南さんと伊坂さんは私の無理を聞いてくれて車を出してくれたのだ。
その研究機構は私が住む街の隣の市街地の中心部に位置しており、その施設は近代的な研究開発拠点として設けられている。
周囲には大学や研究機関、産業団地などが存在し、昼間は多くの学生たちが建物間を移動している。
今日は休日だが研究するためか、数人の学生が行きかう光景をバスの車窓から眺めていた。最寄りのバス停を降りると、
どっと上がる体温を感じながら、急いで日陰のある場所を探した。
日陰に入り、顔を上げると先ほどまで日差しで見えなかった光景が目に入った。
先日、未来新技術研究機構を訪れた時は夜だったが、夜になってもまだ灯りが消えない中層ビルらも立ち並んでいた様子は、印象的だった。
昼間に見る研究所の周辺一帯は、暗くて見えなかった部分も日が当たり見えるようになったことでさらに存在感を増していた。
敷地内に入り、警備員室で通行許可証をもらう。
研究所はガラス張りで内部は何度見ても最先端の設備と施設で充実している。広々とした研究室や、先進的な実験場、機能的な会議室があり、前よりも多くの専門家や研究者たちが動き回っていた。
担当の者をお呼びします――ということでクーラーの風が流れ込んでくる警備員室の前で待っていると、南さんが玄関口から出てきて、迎えてくれた。
「お待たせして申し訳ありません。こんにちは、加野さん。遠くからありがとうございます。ようこそいらっしゃいました。道中、暑かったでしょうに」
という南さんも暑そうだ。
「ええ、溶けるかと思いました。というのは冗談ですが、こちらこそ今日はお時間作っていただき、ありがとうございます。よろしくお願いします」
冗談を言いつつも、今日時間を作ってくれた南さんに対し、お礼を言った。
「先日はこちらこそご自宅まで急におしかけて申し訳ありませんでした」
南さんは深くお辞儀をした。
私は南さんに案内されながら先日来た時と同じ地下へと続くエレベーターに乗った。
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