第730話 クロスステッチの魔女、結局買い物をする

 フリルのついた服や、丁寧に編まれたレースのついた服。リボンや、毛皮がついた服もある。もちろん凝っていればいるほどお値段も上がるようだったので、上手いこと丁度いい辺りを探して買わなくてはいけなかった。


「うーん、あんまり高いの買ったらここで全部の買い物が終わっちゃうんだよねえ……みんな、私の新しい普段使いの服には何がいいと思う? 予算はここまでね!」


 カバンからルイスやキャロル、アワユキ、ラトウィッジが少し顔や腕を出して、服をあれこれ見始める。私も、これぞという一着を探して意外と広い店の中を歩き回った。


「マスター! この服、宝石がついてます!」


「それ絶対、他の誰かが入れちゃっただけだよ、却下! ほら色違いの宝石ついたドレスが、遥か予算の高い方にいる……返しておくわね」


「主様ー、このフリフリは?」


「普段使いの服だからね? こんなにフリフリしてたら、迂闊に機織りなんてできないわよ」


 ルイスが出してきた宝石つきの服を本来の列に戻し、アワユキが見せてきたフリルたっぷりの服を断る。少しついてるくらいならいいのだけれど、このままお城にでも行けそうなフリフリ具合だったので、アワユキには悪いけど仕方ない。


「あるじさま、こちらの刺繍入りの服は中々良いのではなくて?」


「そうねえ。魔法ではない単純な刺繍だから、値段もそこまで高くないし……これは悪くないかも」


「キーラさま、キーラさま、これは?」


「ラトウィッジもまた、派手なの選んだわねー……花飾りかあ。あ、でも思ったより高くない」


 魔法ではない刺繍がついた生成色の服や、胸元に花を模した布製の飾りがついた灰色の服は、悪くないと思う。改まった場に着る服でないのなら、黒以外も、たまにはいいだろうし。


「《ドール》に服を選んでもらう様子、見てました。迷ってますか?」


「はぁい、迷ってます」


 すすすす、といつの間にか側に来た店員の魔女に声をかけられ、私は頷いて二着の服を見せる。生成色の服は袖に少しレースがついていて、灰色の服は裾の布を少し多めに使ってフリルを作っていた。


「私めの目測ですが、おそらくさほど直しも必要なく着れるかと。二着まとめて買ってくださるなら、これくらいのお値段で売らせていただきますよ」


 う。二着買って、今パッと作った予算の上ギリギリだ。買えなくもないのが怖い。


「……先に、一度着てみていいですか?」


「ええ、もちろん」


 小部屋に案内されて服を着替えてみると、確かに裾や袖の長さ、肩やお腹の感覚が、ほどほどのぴったり感だった。誂えの物よりはうまく合わないけれど、わざわざお金を払って直してもらうほどではない。

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