第703話 クロスステッチの魔女、予定を立てる
「あとちょっとで出来上がりそうだから、だめ?」
「それで一年、指が銀色になってもいいなら、僕は構いません」
「ちゃんとしなきゃだよー?」
「心配ですの」
「元の指の方が、いいです」
私の提案に四人から反対されてしまったけれど、本当にあと少しだったので、今夜だけは魔法を作らせてもらうことにした。夜が明けたら少し休んで、まずは必要なものが揃っているか、いないかを確認しないといけない。
「ちなみにカロリナの香木はありませんでしたが、新品の鉄の鍋と水晶はありました」
「星屑石は?」
「小さいカケラが少量しかなかったので、安全を取るなら新しく手に入れた方がよいかと」
それなら今夜刺繍して、朝から採りに……まだあそこに鉱脈残ってるかな。星屑石は星の光で光るから、採りに行くなら夜がいい。あれは星の光をよく浴びられる、山の上の方にあることが多いから、登ることも考えたら結局、昼から出ることにはなりそうだ。
そんなことをつらつらと考えている自分を、魔法に向き合うために一度止める。あんまり考え事をしながら刺せば色々なものが疎かになってしまうし、間違いに気づかないで刺し終えてしまえば事故の元だ。
「……こんな感じかな」
木窓の向こうから、かすかに朝の光が差し込んでくる頃。私は一通り刺し終えた刺繍を手に、満足感に浸っていた。半月で完成させられたのは、誇っていいことだろう。私にしてはよくやったものだ、うん。間違いが怖いから、まだ糸の始末はしないけれど。
「キーラさま、もう夜明けちゃいましたよ。紅茶はいかがですか?」
「濃いのを一杯、お願い」
ラトウィッジに淹れてもらった、濃く渋いお茶を一杯飲む。刺繍の途中で止めた考え事を再開させるために、前に買った地図を持ってきて机の上に広げた。
「星屑石を拾うには、山の上の方に行かないと。カロリナの香木は、元の木から切りたてがやっぱり一番いいから……両方を満たせる場所を探すとして」
必要なものは、日当たりのいい南向きの斜面と、湿った土、星の光が降り注ぐ、他に遮るもののない場所。そして何より、ほどほどの日数で行って帰って来られる場所でないといけない。
ああでもない、こうでもない、としばらく考えていた私は、ひとつの山に目をつけた。地図に書いてある様子を読み取る限り、必要なものは両方ありそうだ。カロリナの種とかあれば、もっと最高なのだけれど。
「ちょっと遠出するわよ。みんな、採取は手伝ってね」
「「「「はーい」」」」
みんな、楽しそうに返事をしてくれた。
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