第648話 クロスステッチの魔女、《核》のことを聞く

 ふたつの袖を縫う。刺繍の時よりも細かく針を動かして、少しだけダーツをつけて身頃を作る。それらを組み合わせて、服が生まれる。刺繍を施すのは今度やることにしたから、ものすごく時間がかかりはしなかった。

 昔に革靴を作ってあげた時のあれは、ほとんど足を入れる袋のようなもので今思うと恥ずかしい。だけれども、ルイスは気に入っているようで、今も雪の頃には履いていた。あの靴を履いている時は、よく見るとルイスはいつも、少し浮いている。それくらい気に入っているなら嬉しいし、うまく歩けないなら申し訳ないのだけれど、聞いてもいつも「大事にしたい靴ですから」としか言われなかった。


「マスター、水晶が震えてますよ」


「誰からかなー?」


「何のご用事でしょうか」


 私の水晶が震える用事はあんまりない。連絡先を交換している魔女が、それほど多くないからだ。お師匠様が《核》を蒐集している魔女と、話をつけられたのだろうか。作りかけのシャツを置いて、私は水晶に向かった。


「はい、クロスステッチの三等級魔女キーラです」


 私がそう声をかけると、水晶の中に魔女の顔が浮かび上がった。真っ白い、お師匠様の姿だ。


『例の魔女と話がついたよ。そんな変わった来歴の《ドール》なら、是非とも《核》を見繕ってやりたいそうだ。瞳が届くのはいつだっけ?』


 《核》を蒐集する魔女。《ドール》に使う以外に、それ単体で愛でることができるとは思わなかったので、私としては興味深い話だ。


「春先と言っていたので、多分、もうすぐだとは思います」


『向こうにはそう伝えておくからね。届いたら連絡するんだよ。《ドール》たち、この子が忘れてたら思い出させておやり』


「承知いたしました」


「わかりました、お師匠様」


 私だけでなく、他のみんなに釘を刺された。そんなにすぐ来る話でもないだろうと思っていたけれど、窓から吹き込んで肌に触れる風の温度としてはおかしくない時期だった。


「瞳が届いたら、それをつけてやって、お師匠様に連絡します」


『あそこの当選品となると、本当に幸運だからね。壊したりしないように、しっかりやるんだよ』


「はあい」


 《ドール》の瞳は大抵、硝子でできている。だから、迂闊に落とすと割れるのだ。そもそも身体も魔法を込め陶器だし、《ドール》はとても繊細な体を張って私たちを守ってくれる。それが《ドール》になる際に彼らに植え付けられたものだとわかっていても、私たち魔女にはその献身に報いなくてはならない義務がある。そんなことを、思い出していた。

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