第640話 クロスステッチの魔女、体から決める
今更な話だけれど、《ドール》は魔女の被造物である。彼らには本当の意味での雌雄の別がなく、性別らしい振る舞いは与えられた体に依存する。例えば今、男の子の体をしているルイスでも、女の子の体を買ってきて頭と《核》を移せば、女の子の振る舞いをするだろう。彼のは普通の《核》とは違うけれど、大元の仕組みは同じ……のはずだ。《核》の元になった性別によって相性はあるけれど、絶対ではない。だから《核》を売る店の魔女は、体を決めてから《核》を決めるのもありだと言ったのだ。
「新しい子で決まってる要素は?」
「目と、頭だけ。これなんですけれど」
私が店員の魔女に頭を渡すと、その色合いを見て何体か選んでくれた。男の子型、女の子型、半人半魚型、性別の特徴がないものの四種類が選ばれる。店員は、栗色の目に藍色の瞳をした魔女で、指先の爪の中は石膏か何かだろう、真っ白になっていた。
「とりあえず、頭の色と違和感なく組み合わせたいって言うならその辺かな。その辺りなら何体か同じ型で作ってあるから、在庫はあるよ。この人魚型なら、鱗の色も何種類か選べるから」
「ありがとうございます」
私の言葉に頷いて、彼女は他の客へ体を見立て始める。なので、私は頭をひとつひとつ、首の上に置いて様子を見てみることにした。頭の大きさから換算したのだろう、どの体もルイスより一回り小さい。
男の子型……ちょっと綺麗系の顔立ちだから、私にはなんだかしっくり来ない。女の子型……顔立ちには合うけど、「これだ!」と思えるかと言えば、ちょっと違う気がする。半人半魚型……確か、人魚型と言っていたそれは、載せてみると似合わなくはないのだけれど、大事な問題がある。これでどうやって移動するのだろう。
「まあ、多分、《浮遊》とかの魔法が必須なんだろうけれど」
それ自体は、別に問題ではない。ルイス達だって、服の魔法で頻繁に飛んでる。多分、同じようなものだろう。下半身が魚だから、スカートしか履けないのだろうな、とも考えた。
最後に、性別を削った体に載せてみる。昔に、新しいのを作るのだと言われて数日面倒を見た《ドール》を思い出した。あの子はあの後、元気にしてるんだろうか。
「あ、これいいかも」
ズボンを履いても、スカートを履いても似合いそうに思えた。魔女の気分で体を付け替える《ドール》は少なくないとはいえ、そんな余剰をつけるお財布の余裕もしまう場所もない。この体が、一番しっくり来て楽しめそうだと思った。
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