第638話 クロスステッチの魔女、核を決める

「う――ん、悩むわ」


 一軒の店の前でうんうんと悩んでいられるのも、やはり《小市》の規模が小さいからだろう。客として参加する魔女も《夜市》より少ないから、のんびりと悩むことができた。


「どんな子にしたいんです?」


「まったく決めてなくて……頭と目だけ手に入ったから、新しい子を組みたい!っていうのだけ考えて、ここに来たんです」


「それは、いくらでも悩みがいがありますね。他の部分は決まってるんですか?」


「いえ、まだ……」


 私は少し気恥ずかしくなって、俯いた。頭と目だけ決まった状態から、先に《核》を決めるのか……それとも逆に、他の部分を決めてから《核》を決めるのか。


「魔女の数だけ、やり方がありますからね。その子達の時はどうしたんです?」


「ルイスは《核》つきの中古品で、キャロルは……キャロルも大体同じなんです。だから、自分で買ったことがなくて」


 あんまりキャロルの《核》のことをうまく言えず、誤魔化したような言い回しになってしまった。《核》の分裂と培養のことを、彼女なら知っているかもしれないとは思うけれど……。


「そんなに悩むなら、体を決めてからという手もあるんじゃない?」


「体から、ですか?」


「首から下ね。男の子型か女の子型、どちらにするか決めてる?」


 決めてなかった。私は頭の部分に瞳の絵を入れたものを取り出し、「どっちにしようかな……」なんて考える。ルイスはかなりはっきりとした男の子の顔をしていて、凛々しい顔立ちに騎士のような服はよく似合っていた。キャロルは女の子の顔をしていて、ルイスから分裂しているけれどふわふわのドレスを喜んで着てくれる。アワユキは……ぬいぐるみだから除外。


「そこから考えないとでした……」


「さらに最近は鹿や魚の一部をつけた特殊な体もあって、出店してる魔女がいたはずです。後は、性別の要素を取り除いた体とか。見に行ってみたら、いい考えが浮かぶかもですね」


「さ、さらに選択肢を増やさないでくれませんか……?」


 すっかり困ってしまった私は、一度このお店を出て、それらの体を見に行ってから考えようという考えになった。


「マスター、さらに悩みが深まってしまいましたね」


「笑い事じゃないわよ、ルイスったら」


「でもあるじさま、楽しそうです」


「いっぱい迷えばいいと思うのー!」


 一応お店の魔女の《名刺》をもらって、私は頭を下げて《核》の店を離れる。さらに細かく店を見て回ろうとすると、あまりにも選択肢が多い。こんなに沢山あると、新しい子のことが決まりそうな気がしなかった。

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