第626話 クロスステッチの魔女、ゆっくりお茶会をする
「その紙は……ああ、当たったのね?」
「ええ。それでどうしようか考えていたところにこのお話を聞いて、渡りに船だなと」
ガヘリア様も応募か当選をしたことがあったのだろう。私が紙を見せると、何をしようとしているのかはわかってくださったようだった。
「目の大きさが合わなかったら、どうするつもりだったの?」
「それはそれで、新しい目を買っていたと思います。まあ……お金の問題はありますが……」
体も髪も目もすべて、買おうとすればいくらでも高級品がある世界。せっかくだから、それなりに上等なものを買ってあげたくもあった。服も家具も用意しないといけない。今回、頭はこれを引き取るから、少しだけ楽ができるのは事実だった。
「細かい傷は薬液に漬けて修復してあるけれど、気になるものがあるなら、あなたの師に頼むといいわね」
「はい、そうさせていただきます」
私が頷くと、銀腕の執事は笑ったように見えた。
「お茶菓子の追加をお持ちしますね」
また腕が伸びて、私達の皿に砂糖のかかった甘いクッキーが載せられた。一口かじってみると、ほろほろと崩れていく。いつも食べているようなクッキーとは違っていて、何か特別な工夫がされているのだろうと思う。そんなものを食べさせてもらえるなんて、と私はついにっこりしてしまった。
「こんなところに来る人も少ないから、自分たち用のお茶とお菓子で悪いけどね。来る人の大半は、処罰されるために来るんだし」
「そういえば、不法放棄の魔女はどうしてそんなことを……?」
ガヘリア様は私の言葉に、熱い紅茶を一気飲みしたかと思うと低い声でその魔女の動機を言った。
「……『思っていたのと違ったから』ですって」
「そんな理由で捨てたんです?」
しっかり現物を見てその場で買ったのに、核も入れて起こした《ドール》の顔が、何故か気に食わなかったらしい。そして返品すればいいのに、手続きを面倒がって捨てたのだとか。同じようなことをまたやって《天秤の魔女》に捕縛され、余罪の一つとして明らかになったらしい。罰金やその他、いくつかの罰が与えられるとのことだった。詳しくは教えてもらえなかったけれど、興味もない。自分が買ったものに対してこうも無責任な魔女がいるんだ、と思うだけだった。
「そんなことしなくても、《ドール》はみんなかわいいのに。私のルイスだって誰かが売り飛ばしたみたいなんですけど、どうしてこんなにかわいい子を売り飛ばしたのか信じられません」
「魔女がみーんな、あなたみたいだったら私達の仕事も減るんだけどねぇ」
ガヘリア様はそう言って、またお茶を飲んだ。
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