第622話 クロスステッチの魔女、思わぬ知らせを聞く
抽選結果が来てからしばらくした後、私の手元に陶器の小鳥がまた飛んできて、陶器でできた厚ぼったい札を届けに来た。同封された手紙には『この小鳥は物入れにお使いください』とあったので、遠慮なく小さい道具箱として使わせてもらうことにする。札の方は身につけておく必要があるそうなので、見失ったりしないよう、先端に開けられた穴に革紐を通して首にかけることにした。こちらは他の魔女に見つかれば当選者だとわかるだろうから、厄介ごとを避けるために服の下へしまっておく。結構な数の魔女が応募していたし、数を増やしたようなことを手紙に書いてあったけど、念のためだ。
「それじゃあ、この目に合わせた体を探さないと……あら、今度は何かしら」
珍しく手紙が相次いで来たと思ったら、今度は水晶が震え始めた。誰かがこちらに呼びかけているのはわかるけれど、その波長には心当たりが全くない。知らない魔女からだ。
「なんだろ……はい、クロスステッチの三等級魔女キーラです」
『《天秤の魔女》第五席、棒針編みの二等級魔女ガヘリアです。三等級への昇格されていたんですね、おめでとうございます』
その名前と水晶に浮かび上がった顔は数年前、捨てられていた《ドール》の頭を預かっていった魔女のそれだった。時間はあるかと聞かれたので頷き、ちゃんと水晶の前に座って話を聞く体勢になる。
『《ドール》の不法廃棄をした魔女が捕まりまして、貴女の見つけたヘッドの引き取りを拒否したんです。ついては、貴女が引き取れるかを確認するために連絡しました』
「なんて巡り合わせ!」
あの子は本当に頭だけで、髪も瞳も、何一つつけていなかった。大きさも……大きすぎず小さすぎなかったから、きっと大丈夫だろう。
「あの、体とかこれから探すのですぐには起こしてあげられないんですけど、それでよければ引き取らせてください!」
私の言葉に、水晶の向こうでガヘリア様が微笑む気配がした。
『何か、アテがおありで?』
「ドールアイだけを手に入れる機会があったので、それに合わせて新しい子を迎えようとしていたところだったんです」
『それはよかった。一応、大きさを教えてくれれば確認しますよ』
私が紙に書かれた数字のいくつかを読み上げると、しばらく水晶から彼女の顔が消えた。戻ってきた時には、微笑みと共に『合いそうですよ』と教えてくれる。
「では近いうちに……そちらに行きます。体や髪や、買い揃えるものも沢山ありますから」
『お待ちしてます』
《天秤の魔女》の裁判所の場所を教えてもらぬたところで、連絡は切れた。
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