第577話 クロスステッチの魔女、風の精霊達と話す
風の精霊達は途中から、完全に精霊石をおもちゃにして遊び始めたようだった。まあ仕方ない、みたいな気分で見守りつつ、その間に私はゆっくり休憩していた。流石にちょっと、疲れていたので。
「お天気もいいわね〜……」
「お洗濯物とか干したら、気分よく乾いてくれそうですよね」
「あー、旅が終わったら全部丸洗いしないと」
ついつい、そんなことまで思考が及んだ。まだ巡るところは一ヶ所あるし、そこから帰ることも考えると、かなり先のことにはなるだろうけれど。
『魔女ー、石に風を籠める他に、してほしいことはある?』
「特にないわね。あれだけが目的だったの。もしもまた何か欲しいものが出たら、またここまで来るわ。たまには運動もしないと」
こんなに体を動かすのなんて、今回の旅がとても久しぶりだった。あちこちにはよく行くのだけれど、移動の大半は箒で飛んでいる。だから、『足が棒になる』心地は、本当に久しぶりなのだ。
「ああ、そうだ。強いて言うなら、これから最後の精霊溜まりに行くの。《レーティアの火の精霊溜まり》よ。随分と暑いと聞くから、この刺繍に少し風を分けてくれませんか? そしたら、風通しをよくする魔法が強くなって、少しでも涼しく進めると思うから」
暑い中に水で冷やすこと自体は有効だけれど、火の精霊の中に水の精霊の力をほんの少し持ち込んでも、足りなくなる予感がしていた。風の精霊の力で風を起こせば、なんとなくまだ涼しくなるような気がしている。
『なるほど、それは賢いことを考えたね』
と言いながら、草の香りの口あり精霊は風を少し、魔法に吹き込ませておいてくれた。私自身の魔法より、強い風がこの刺繍から出せるようになるはずだ。これからも暑くなるし、いいものにさせてもらったと思う。
「じゃあ、後は石が戻ってくるまでのんびりしていることにするわ」
「マスター、お茶でも淹れましょうか?」
「風がすごいからやめておきましょっか……」
風にまくられてお湯がめくりあがりでもしたら、大惨事になるのが目に見えている。水筒から水だけ飲んで、ぼーっと空を見ていた。たまには、こんな時間があってもいいと思う。
「戻ってこないねえ、石」
「魔力は感じられてるんだけどねぇ」
「魔力の入れすぎで壊れちゃったりしませんか?」
「んー、多分大丈夫そうだとは思う」
数時間はそうやって眺めていた後、やっと石が帰ってきた。口あり精霊が幼い精霊にお小言を言いそうな感じだったので、「石が戻ってくれば大丈夫よ」とだけ言って受け取る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます