第477話 クロスステッチの魔女、色々と教えてもらう

「魔法を習いたい? その目では難しいと思うけど、いいわよ」


 グレイシアお姉様に許可をもらって、私は魔法の図案をいくつかもらった。「この腕輪の魔法はまだ早いわよ。この辺なら大丈夫だと思うけど」と、何枚かの羊皮紙に描かれた魔法をひとつひとつ教えてくれる。


「身を護る魔法はいくつ知ってる?」


「ええと、私が作れるのは《身の護り》と《傷の請負》です。お師匠様からもらったお守りには他の魔法もあるみたいですけど、あまりわからないです」


「まあ、そのふたつは基本よね。上級魔女でも、使ってる人は多いわよ」


 なるほど、と頷いていると、このふたつは私が扱えるような簡単な魔法だからこそ、愛用されているのだと教えてくれた。軽い魔法だからずっと維持していても、大した負担にはならない。他の魔法との噛み合わせも悪くないらしい。ううん、そういうのはほとんど考えたことはなかった。これからは気にしないといけないらしい。


「で、この辺は単純にちょっと難しいけど、覚えておくと楽な魔法」


「ほうほう」


 一番上に載せていた羊皮紙のものは、《道辿り》の魔法だと言われた。これは私が箒にかけたりしている《引き寄せ》の魔法に、模様が似ている。


「この魔法をかけられたモノは、刺す時に指定していた動きをさせることができるわ。これよりもっと自在に動かせる魔法は難しいから、まずここからね」


 物を動かす魔法、と言われて、すぐにぴんと来た。


「もしかしてこれの上級魔法は、お師匠様がティーポットを飛ばしているあれですか?」


「そう! でもまずはここからね。あと、落としてもぶつけても壊れないものから練習すること」


 確かに壊す自信がある。最初は小石とかから始めるのがいいわよ、と言われたらもう、早速作りたくなってしまった。まだ、魔法は使えないのに。


「早く呪いを解いてもらって、魔法が使えるようになりたい……花が見たいし砂糖菓子も作りたい……」


「《裁きの魔女》様方は魔女をやって長いだろうけど、そこまでのんびりとはしてないはずだ。辛抱おし」


「使えなくなるとこんなにも、魔法が恋しいものなんですね」


 そんなことを呟きながら、私はお姉様からもらった図案の魔法をさらに教えてもらう。何故かそこから綺麗な装飾字体の書き方に授業が移り、気づけば書き取りの宿題を出されてしまっていた。


「字が綺麗に書けるようになっておいて、損はないわよ」


「はあい、グレイシアお姉様」


 確かにこれなら、色が褪せた目でもできることだった。

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