第297話 クロスステッチの魔女、年越しの夜会を終える

 会場中がキラキラと輝く光の花や、輝かしい贈り物で満ちた頃。ターリア様はまた手をつと上げられて、会場が静かになった。


「……皆の者、もう夜も更けた。新しい年の贈り物をそれぞれ受け取ったのであれば、この宴もお開きの時。来年また、そなたらの名や姿を見られること、楽しみにしていよう」


 それは、夢のような宴の終わりの合図だった。三々五々、ターリア様達に挨拶をして魔女達は会場を離れて箒で家に帰って行く。これで終わりだ、と思うと、夜会の間はあまり意識しないでいられた三角帽子とコルセットの重さと締め付けを感じてしまった。多少の踵で背伸びした足の疲れも。きっと、楽しい時間というものには特別な魔法の力があるのだ。人間の頃もたまに、そんなことがあったような気がする。

 先ほどまで話してくれた魔女達は、私にも手を振って挨拶をしてくれた。ユーノ様はアキ式の礼をターリア様にした後、薄い布をストールのように纏って、軽く跳ねたかと思うとそのまま飛び上がった。え、あれで飛べるの?


「アキ式の飛行術、見ていて不思議よね……」


「お師匠様もそう思われるんですね……」


 そんな話を少ししていると、お師匠様に促されてターリア様に辞する挨拶をすることとなった。


「此度は得難い時間をありがとうございました、ターリア様。今度は自分の魔法の実力で、招かれたく思います」


「ほほ。それはよいことじゃの。もう一度、そなたに招待状を書かせてもらうことを祈っておるぞ」


 その言葉に一礼して、私は会場を辞した。ターリア様にはもう挨拶をされていたお師匠様の元に追いつき、自分の箒に乗って浮き上がる。


「さて。年越しの夜会はどうだった?」


「出される飲み物もおいしくて、楽しかったです! すごい魔女や異国の魔法使いもいて、今日だけでかなり色々と勉強になりました。けど……やっぱり、コルセットと三角帽子がそろそろしんどいです」


「あっはっは! もっと早く弱音を吐くと思ってたよ。ちっとはマシになったんだね」


 ほら帰るよ、とお師匠様が少し先を飛んだから、行きのようにその後ろをついていくことにした。帰りはゆっくり飛ぶのかと思っていたけれど、行きと変わらない速さでお師匠様が箒を飛ばしている。


「お師匠様、もう少しゆっくり飛ぶかと思ってました」


「もう夜も遅いし、慣れない服装だし、あんたが箒から落ちる前に帰らないといけないからね」


 この城がある場所では普通の《扉》系魔法が使えないから、とお師匠様はさらっと言った。聞き返す前に月を潜り抜け、箒の柄を家の方角に向ける。

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