第223話 クロスステッチの魔女、《ドール》の手入れのことを学ぶ

「《ドール》は自分の不調を上手に言うことができない個体もいる。だから、魔女の方が《ドール》の体調を把握してあげることが大事だ。ルイスはどう?」


「少し前に、ルイスのお腹に傷があったのを魔力で治しました。本人は隠してたというより、意識してなかったとか、気づいてなかった、って感じがしましたが……」


「《ドール》の身体は、人間のように痛むことはない。血も流れない。魔女の方が、まだ多少の痛みがあって血が流れる分、まだ人間に近い。でも、この子達は違う。だから、あたし達が気にしてやる必要があるんだ」


 魔法糸の点検をすると、少し糸が薄くなっていた。すべて取り出して、新しい素材で縒り直す必要があるとのことだった。日常生活でついた細かい傷を、薬液に漬け込んで修復する。前についていたお腹の傷がぶり返すようなことはなかったけれど、お師匠様が魔力を注ぎ込んでお腹のパーツを綺麗にしてくれた。


「……お師匠様、この子達は《ドール》として起き上がって、幸せなんでしょうか。あの捨てられていた子も、もしかしたら、あのまま意識もなく眠り込んでいた方がいいんでしょうか」


「それを決めるのは、《ドール》達自身。魔女の方が《ドール》をどう思うかも、お互いの数だけ関係があるから……本当に、それぞれによるんだもの」


 お師匠様の話を聞きながら、バラバラにしたパーツをひとつひとつ薬液で洗っていく。魔力の燐光がルイスに吸い込まれていって、その分彼は元気になっていくのだ。私はいつもの魔法を作るよりも丁寧に作業をしていく。でも、私がこすってみても、やっぱり取れないものがあった。私が買った時からルイスの肌にある、タトゥーだ。


「そのタトゥー、取りたいの?」


「……《魔女の夜市》で、この子が気にしていたようで。着替える時は、人目に触れてしまいますから」


 でもこれは刻まれていて取れないものなのだと、お師匠様はルイスのパーツを見ながら言った。


「これが、元のマスターが美しいって思うものだったんでしょうか?」


「それもそれでありそうだし、後は、何か理由があって刻んでいるというものね。刺青の魔女が刻んだような、何かを封印するためとか、隠すため、とか」


 なら、どうしてそんなものを刻んでおいてルイスを手放したんだろうか。そう思うとなんだかやるせなくて、私は別のパーツを綺麗にする。純粋な魔力を放出しないように刻まれた、封印のタトゥー。私はルイスを手放さない決意を新たにしながら、パーツが魔力を吸い上げるのを見守っていた。

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