第195話 クロスステッチの魔女、戦利品を見せてもらう

「クロスステッチの魔女ー、来たわよー」


「グレイシアお姉様! 今開けますね」


 グレイシアお姉様が私の家に来たのは、予定より一日半遅れた夕方のことだった。お姉様も《ドール》達も服は汚れていたが、怪我はなさそうで、なおかつ満ち足りた顔で家に入ってくる。


「そのご様子ですと、狩りは順調だったようですね」


「色々といたのよ! おかげでしばらくは素材狩りに行かなくてもよさそうなくらい!」


 私がお茶を淹れると、お姉様はお茶を飲むために席に着いた。ルイスは「皆さんすごいです!」と感動の声を上げ、イヴェットとルイスも興味津々の顔をしていた。お姉様は女の身で男同然の服を着て腰に剣を下げている他は、小さな鞄をひとつ持っているだけの姿をしている。上流のご婦人が持っているような、ロクに物の入らない様子の鞄だ。狩りの帰りのようには見えない姿だけど、私達は魔女だ。


「ちょっと机広げて、獲物見せるから」


「はーい」


 机の上に広げていたティーセットを台所に引き上げ、場所を広げる。するとグレイシアお姉様は小さな鞄に手を入れ、明らかに大きさの合わない戦利品を取り出してくる。大きな鱗や何かの紐、油紙に包んだ塊、宝石らしきもの……。


「本当に大漁ですね、お姉様」


「狩りそのものは魔女達と《ドール》達の合同だったんだけど、うちはこの通り人数もいるからね。貢献度も高いってことで、色々もらってきたのよ」


 そう言いながら、グレイシアお姉様は机の上に広げた戦利品の解説をしてくれた。どれも、魔法の力を感じる魔物由来の素材なのは、言われずともわかる。ドラゴンの鱗や心臓の琴線の一部、油紙にくるんであるのはドラゴンの肉の一部で、シチューにするとおいしいらしい。量が多いから、一部は塩漬けにするそうだ。手のひらほどの宝石は、これでドラゴンの核である魔石の一部らしい。


「どれもすごい素材ですね……」


「まだ未熟な魔女が扱うと、ろくでもないことになるわよ。三……いえ、こないだ二等級に格上げになったわね。扱える許可が出たのは」


「こんな魔力、呑まれておしまいな気がします」


 前は三等級でも許可を得れば使えたらしいけれど、ドラゴンの魔力に呑まれて呪われた魔女が出たことから引き上げられたらしい。何百年か経たないと、私が扱えるようになる気がしない。


「ドラゴン肉を少しなら食べていいと思うから、ちょっと置いていくわね」


「え、いいんですか?」


 ぽん、と軽く油紙の包みを渡されて驚いた。「これだけあるから大丈夫よ」と大量の肉の包みも見せられる。どれだけ大きいドラゴンなのか、考えたくなかった。

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