第133話 クロスステッチの魔女、別れの準備をする
お師匠様は占いをした後、しばらくお茶を楽しんだりアワユキの身体を作るための型紙の作り方を私に教えて帰っていった。お師匠様の水晶玉に、お客が来たという連絡が来たのだ。
「春先にはまた来るわ。それまで、元気でね」
「はい、お師匠様。アワユキの身体のぬいぐるみは、それまでに仕上げておきたいところです」
「私も姉様のお手伝い、頑張ります」
「イースとステューにも、よろしくお願いします」
『またねー』
皆でお師匠様が箒で帰るのを見守った。綺麗な線を描いて飛んでいくお師匠様の箒に、私も練習しないといけないな、と思いながら。
それからはメルチに料理を教えたり、アワユキの身体を作ったりした。魔兎の革を切って、縫い代に沿って糸で縫っていく。その作業は魔力を使うものだったから、メルチやルイスに手伝ってもらうわけにはいかないものが大半だ。それでもたまにある魔力をあまり使わない作業を提案してみると、二人とも積極的にやってくれた。
メルチには、青空胡桃の実の中身を薬研で挽く作業を頼んだ。青空胡桃の胡桃は、宵雲石の薬研でじっくりと挽くと物凄く嵩が増える。宵雲石の薬研を扱うのは魔女である必要がないけれど、《ドール》――特に少年型のルイスでは籠められる力が軽すぎる。だから、メルチにはぴったりの仕事だった。
「姉様、これ本当に一欠片ずつ挽くんですか?」
「ものすごーく嵩が増えるから、これ以上入れると大変なことになるのよ……」
前にお師匠様が持っていたのを挽かせてもらった時のことだ。弟子入りしてすぐ、魔力が未熟なお前にできる作業だと言って任せてもらったものだった。一度に沢山入れたがために、薬研も見えなくなって大惨事になりかけたのだ。その綿を回収されながら教えられたのが、粥で家が埋まりかけた魔女の話だったっけ。
「これだけでも、多分、アワユキに詰め込めるだけの量は作れるかもしれないわね。でもいい機会だから、挽いて袋に詰めておきたいの。お願いできる?」
「はい、わかりました姉様」
メルチがそう言って薬研をゴロゴロと挽く音を聞きながら、私は隣の部屋で別の作業に入った。手に取ったのはアワユキの作りかけの部品……ではなく、小さな帳面。書きつけのために買っていた羊皮紙の不揃いな大きさの束から、綺麗な四角を切り抜いて作った帳面だ。その結果、元の羊の色もバラバラだからページをめくる度に少しずつ違う色を見せるようになっている。
「マスター、メルチさんにそれをあげるんですか?」
「ええ。あの子は魔女にならないようだけれど、ちょっとしたものを用意してあげようと思ってね」
凝った字体は作れないけれど、なるべく綺麗な字で書くのは彼女に教えたこと。掃除の仕方、料理の仕方、魔女について正式な弟子でない彼女に教えられる範囲のこと。私自身の魔法の本はまだほとんど白紙だけれど、彼女には今用意しないといけないから、書くのが苦手などとは言っていられなかった。
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