第118話 クロスステッチの魔女、お出かけを計画する

「メルチ、あなたについては「待て」と出たわ。今すぐには状況は変わらない。あの感じだと、多分……春になったら、あなたにとって何かいい変化がやってくるみたい。アワユキに必要な素材は、冬の間に手に入るみたい。明日、南に方角に行けば吉—――ということなんだけど、メルチは」


 お留守番してもらおうかしら、と言おうとしたけれど、彼女は私の言葉を待たずに言った。


「私も行きます、姉様。お手伝いしたいです」


 手を上げてそう言ったメルチの金髪を隠し、メルチの首飾りだけ見えるようにしておけば身の安全そのものは守れるかもしれない。防寒具は、おしゃれも兼ねて何種類か持っていたのを貸してやればいいだろう。今までもメルチは私の服を着られているし、冬の冷たい風が首元に吹き付けるのが嫌だから私の外套はすべてフードが付いている。


「じゃあ、『降りた直感はすべきことである』と言うし、明日出かけましょうか」


「わかりました、じゃあ明日はあの外套を―――」


「あれはだめ、私のを貸すわ。ものすごーく目立つもの。すぐバレるわよ、千匹皮のが私と一緒にいるって」


「あ、そうですね……」


 そんなやり取りをしながら、私は採取道具の予備をメルチに貸すことにした。最初は十も二十も羽毛布団を重ねた下のえんどう豆だってわかりそうな柔肌のお嬢さんだったのに、私が容赦なく綿の服を着せたり水仕事をさせているうちに、少しずつ普通の娘のようになって来た。手も肌も相変わらず真っ白だし、髪も目も輝かしさは失せていない。けれどその内面は、ただ与えられ命じるだけの娘ではなくなってきていた。

 魔女見習いになった娘達の中には、今までろくに家事をしたことのない人も多い。弟子入りを許される程度に「美しいもの」を見出せるのは、生活の余裕とかなり密接にかかわるからだと、お師匠様は言っていた。だからそういう娘達に家事を仕込むやり方はお師匠様も心得ていて、私に色々教えてくれていた。その成果がメルチに現れたのは嬉しい。ちなみにお師匠様には、私の時には何も教えなくてできたのが楽だが退屈だったとも言われた。


「メルチ、明日は採取をするためにそれなりに歩くと思うし、肉体労働を結構すると思うけど、それでも行く?」


「はい。今の私は、あなたの弟子ですから」


「マスター、もちろん僕も手伝いますからね!」


『アワユキもー!』


「もちろん、二人にも色々手伝ってもらうからね。そのつもりでいてね」


「「『はーい』」」


 元気に手を上げる彼らの様子を見ながら、私はスープを飲み終える。ついでに狩りをしてもいいし、魔女組合の方によって食料を買ってもいい。採取をこうも楽しみに思うのも、なんだか久しぶりな気がした。

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