第106話 クロスステッチの魔女、素材のリストを作る

 箱庭の中には、私でも育てられる簡単な植物たちが植わっていた。魔綿の実がふっくらとしているので、もう少し育ったら収穫するべきだろう。それから普通の麻がすくすく育っている様子も見る。こちらは収穫時期だったので、刈り取ってルイスに持ってもらった。


「アワユキには何が似合うかしらねえ」


『えーっとねえ、アワユキが見たのはねえ、葡萄みたいな紫のお目目をしていたの! 尻尾と、角も! だからそういうのがあるといいなあ!』


「きっとありますよ。ねえマスター」


 そんな話をしながら庭の手入れをしたものの、残念ながらアワユキに似合うだろう紫色の綺麗なものはあまりなかった。元々、私の箱庭はそこまで大きい方ではない。お師匠様の箱庭なら、あったかもしれないけれど……。割ると金色の粉が採れる太陽ノ実、噴水の魔力と水流で磨き上げた金剛水石のふたつは、アワユキに使えそうなので持っていくことにする。


「やっぱり、お外に採りに行くべきだと思うの。紫色の角と爪に使うための石に、目に使う宝石は欲しいでしょう。それに中に詰めるのも、魔綿より……確か、特別なクルミの実の中身を使うと、とてもいい詰め物になるんですって。それを探してみたいところだわ」


『アワユキ、楽しみー!』


「僕も楽しみです」


 書き付けのメモを思い出して、私は二人にそういう話をしていた。名前は確かそう、青空胡桃だ。あのクルミは殻にも特別な力があって、小さなクルミの実の中に大きなものを詰め込める模様になっているのだという。私が使っている《容積拡大》の魔法の刺繍も、元を辿れば青空胡桃の模様を魔女が写し取って、刺繍にしてみたのが最初だったのだという。私はそんな話を思い出しながら箱庭を閉じて、二人と一緒に家に戻ってきた。動作としてはいったん開いて机の上に置いていた箱を、閉じただけ。あまり難しいことはしていない。


「青空胡桃の実に、角は……アワユキは雪の精霊だし、近い水系の素材がいいかな。海の方まで行って、紫珊瑚が落ちていたら一番かもしれないわね。小さいカケラがあれば、それを爪の部分に当てて……目、目はどうしようかあ」


 図鑑のひとつを開いてみれば、そこには大量の紫色だという石の名前や簡単な性質が並んでいる。紫色にも色合いが沢山あるし、紫という色—――赤と青を混ぜたその特性上、火と水の両方の属性を持っている場合が多いようだ。ひとまず似合いそうな石の名前を何個か紙片に書きつけていると、不意に家のドアがドンドンと激しく叩かれた。

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