第104話 中古《ドール》、兄さまになる
僕は兄というものになった。そうさせてくれたのは、マスターが拾ってきたアワユキという名前の精霊。と言っても、昔何かで聞いたような半透明の姿から、今は雪兎の中に入っているのだけれど。アワユキは僕と同じで、マスターの砂糖菓子が好きで、マスターの《ドール》になるのだとマスターは張り切っている。アワユキの望んだ姿はニンゲンのカタチではなく、竜だったから、マスターはちょっと大変らしい。
『兄さま兄さま、アワユキにもお砂糖菓子をひとつちょーだいな』
言われるままに雪兎の口(らしき部分)に砂糖菓子を入れると、カリカリと齧る音がして消えていった。僕もひとつ摘まむ。マスターは僕とアワユキが好きな時に好きなように砂糖菓子を食べられるよう、木の鉢の中にいつもこんもりと積み上げてくれていた。マスターが今朝、「二人がいつでも食べられるように、多めに作っておくね」と沢山の砂糖菓子を魔法で出してくれたのはいいのだけれど、山になりすぎて上の方をアワユキが取れなかったのだ。かと言って下の方を下手に取れば、山が崩れてしまいそうなので、空を飛べる僕が取ってあげている。
『アワユキもお空飛びたーい。前は飛べてたような気がするの!』
「じゃあ、マスターにお願いしないといけませんね」
二人とも飛ぶことができたら、マスターは僕達と目を合わせてお話をするのに苦労しないだろう。優しい彼女は屈んだりもしてくれるだろうけれど、僕は飛んでマスターと目を合わせたかったし、きっとアワユキもそうなのだろうとわかった。
下の子ができて、マスターが僕だけに向けていた優しい感情をアワユキにも向けるようになったけれど、それを嫌だとか、取られたとかは、今のところ思わなかった。マスターは変わらず僕にも優しいし、今までマスターのお身内の方の《ドール》から末っ子のように扱われていた僕にとって、僕を兄と慕うアワユキの存在は初めてだったのだ。
(それになんだか、昔から、こういうのに、憧れていたような気がしますし)
まるで、長年の夢が叶ったような。ずっと憧れていたものを手にしたような。そんな嬉しさがあったから、僕は僕の好きにしていいと言われた魔兎の革を、アワユキに分けてやることにしたのだ。だって、僕は兄さまだから。
「マスター、アワユキの何を悩んでるんですか?」
「中身、目、あとは角かなあ……雪竜から引っぺがすわけにもいかないし、ある程度魔力のあるもので代用した方がアワユキにもいいだろうし」
『アワユキ、兄さまみたいにお空飛びたいの!』
「わあ、私頑張らないとね」
マスターは僕達二人を膝に乗せて、撫でながら図鑑と木板を広げてああでもない、こうでもないと唸っていた。僕もアワユキも、そんな風に言いながらもマスターが素敵なものを作ってくれると信じて疑わなかった。
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