第102話 クロスステッチの魔女、会議する
アワユキは雪兎の身体が溶けないように、しばらくは私の砂糖菓子を与えることにした。魔力を補給できたとしても、雪でできた体が溶けてしまうのでは意味がない。ある程度は魔法で補えるという話だったけれど、だからと言って食べさせて補給した魔力と体の維持の魔法では、使う分が多そうだったので仕方ない。
「寝る前に、アワユキのことで決めておきたいことがありまーす」
「はーい」
『なあにー?』
ルイスとアワユキを机の上に置いて、私は一枚の板と白いものを持ってきた。一人暮らしに持ってはきたもののずっと使っていなかったので、軽く積もっていた埃をぱっぱと払う。それは滑らかな石の板と、白い特別な石だった。特別、と言っても魔力があるわけではない。ただ、白くて、この石で引っ掻いた痕が白く残るというもの。けれど少しこすれば、石の痕は消すことができる。石の板と合わせて、簡単な記録に使うんだよ、と言われて渡されたものだった。今まで使い勝手がわからずほったらかしていたのだけれど、やっと役に立ちそうだ。
「明日から、アワユキの新しい体になるものを作りたいと思うのだけれど……その前にね、アワユキの姿かたちをどうしようかなって思ってて」
「あ、僕のようにヒトの姿を取るにしても、何色にするとか、どんな姿にするとか、マスターが決められるってことですね」
『楽しみー』
ルイスに読んでもらった図鑑の記述からすると、どうやらカタチについては人型とは限らないらしい。そもそもアワユキが現在は雪兎の中に入っている通り、精霊—――大本が『現象』であるこの子にとっては、どんなカタチであってもそこまで問題はないらしい。
「アワユキはどんな姿をしていたい、とかある?」
『うーん……』
アワユキは雪でできた目を閉じるようにして、どんな姿がいいかを考え始めたようだった。私はその横で人型、犬、猫、鳥、兎、魚、などを白石で描いていく。
「マスター、絵がお上手なんですね」
「こっちだったら、勉強はいらないしね……アワユキ、どういうのがいい?」
何種類か絵を描いてアワユキに見せてみると、アワユキは『ふわふわ飛んでいた時に、見たことがある姿になってみたいの』と希望を言ってきた。
「希望があるなら作ってみるけど、どういうの?」
『えーっとね、ん-とね、毛がふわふわしていてね、お空を飛んでいたの』
「どの形に似てた?」
アワユキはぴょんと軽く跳ねて、魚の絵を葉の耳で指した。
『これがもっと長くて、にゅ~ってなってたの!』
その説明に心当たりがあって、色刷りの図鑑を開く。『これこれ!』とアワユキが嬉しそうに反応したのは、雪竜のページだった。
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