第715話 十二月十四日 午後のリハーサルの前に

 午後になって生徒たちが次第に増えてきた。

 真理子とあやめが各楽屋がくやに午後の最初のリハーサルはエキシビションからということを告げて回る。

 真理子からエキシビションのリハーサルはエキシビションの順番通り踊りを通すと伝えられた。エキシビションの出演者六人は、園香そのかたちの楽屋と男性の楽屋にいる。


 あやめが小学生や中学生、高校生の楽屋を回って、これからのスケジュールを伝える。

「一時から午後のリハーサルを始めるけど、エキシビションのリハーサルを順番にやっていくから、皆はストレッチとバーレッスンをしっかりやって体を作っといてね。エキシビションが終わったら、一応、全員でバーをする予定だけど、それまでにできることは各自やっておくように」

「はい」

「これから来る人たちにも伝えといてね」

「はい」

「全員でやるバーが終わってから来る人もいると思うけど、その人たちは自分でバーやっといてもらうようになるから、遅く来た人には、それも伝えといて」

「はい」


 あやめが中学生たちの楽屋にいた宮崎バレエの朱里あかりたちに言う。

「リハーサルが始まったら、後から来る生徒たちのバー見てあげてくれるかな」

 朱里たちは、あやめからの思わぬ依頼に顔を見合わせたが笑顔で頷いた。

「わかりました」

「お願い。高校生とか大人の人たちも来ると思うけど、遠慮せずに指導してあげて。多分、あなたたちの方が上手だと思うから」

「そんな」

 あやめが朱里たち三人の肩をポンと叩いて微笑む。

「あなたたちの方が上手よ」

 そう言って、あやめは、一旦、自分の楽屋に帰った。


 真美が楽屋から出てくる姿が見えた。朱里たち三人が真美を追いかける。

「真美さん」

「ん?」

「あやめさんに生徒さんたちのバーを頼まれたんですけど」

「ああ、そうなん。やってあげたらええやん」

「大丈夫でしょうか?」

 と少し心配そうに言う朱里に真美が微笑んで、

「大丈夫や。今朝のバーでも朱里らは立派にアシスタントやってたやん」

「まあ」

 そばで聞いていた瑠々るるが朱里たちを見上げながら言う。

「朱里ちゃん、そんなに自信ないんやったら、瑠々がやったろか?」

 朱里が瑠々を睨むようにして、

「それはええわ。私らがやっとくわ。瑠々は自分の練習し」

 と言う。

 瑠々がもう一度、朱里たちを見上げ、美香からもらった扇子せんすをサッと開いて二、三回パタパタと扇いだかと思うと、パチンと音を鳴らして閉じ、自分の楽屋の方に歩いて行った。

 横で見ていたゆいがぴょんとジャンプして、小さな腕をくるんと回すようにしながら指をパチンと鳴らし、

「瑠々ちゃんカッコいい」

 と言って瑠々を追いかけ楽屋に走っていった。

「な、なんやねん。あの二人。唯ちゃん可愛いけど、今の、あれ、なんなん?」

 朱里が困った顔をして言うのを見て真美が笑いながら言う。

「なんか分らんけど、唯ちゃんなりに、あれはエスメラルダやな」

「エ、エスメラルダ? エスメラルダあんなことしましたっけ?」

「いや、まあ、あれは唯ちゃんのエスメやと思うわ」

「まあ、可愛いから、どうでもいいけど」

 朱里が首を傾げながら言う。


 真美が首や腕や足首をクルクル回すようにウォーミングアップしながら、

「ほな、午後のリハ、私からやから、そろそろ行くわ」

 と言って舞台に向かった。

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