第687話 十二月十三日喫茶店エトワールでのひととき

 向こうの席には青葉あおばとおるの周りに、すみれや美織みおり、そして、静音しずねやルエル、エルネスたちが話をしながら食事をしている。


 真理子とあやめが喫茶店エトワールに帰ってきた。真理子たちはオーケストラのメンバーが食事をしているホテルのレストランに行っていたのだ。

 恵那えなたちはオーケストラのメンバーで話すこともあるようで、真理子にエトワールで食事をしている人たちの方へ行ってあげて下さいと言われたそうだ。

真理子とあやめの登場に、皆一様に「お疲れ様でした」と声を掛け一緒に食事をした。


 恵人けいとと優一、瑞希みずき園香そのかたちのところにやってきた。

「疲れてない?」

 恵人が園香に優しく声を掛けると、一緒にやって来た優一が隣から、

「疲れたよ」

 と言う。

「え?」

 と言って優一の方を向く恵人。瑞希が優一を睨むように見て、

「なんで優一さんが疲れるんですか」

 と言う。

「え? だって、僕、ドロッセルマイヤーだよ」

 と優一が言うと、瑞希が呆れたように、

「ドロッセルマイヤーでしょ。ねずみの王様みたいに戦うわけでもないし」

 と言う。

「え? 瑞希ちゃん、僕が舞台で活躍してる姿見てくれてないの?」

 と優一が目を丸くして言うと、近くにいたゆいが元気に手をあげて、

「ドロッセルマイヤーのサンタさん」

 と言って微笑んだ。皆に笑いが広がるなか、優一が唯の頭を撫でながら、

「ほら、唯ちゃんはわかってくれてる。ねえ、唯ちゃん。サンタさんだよね」

と言うと、唯が嬉しそうに、

「サンタさん、クリスマスのところで唯にプレゼントくれるの」

 と嬉しそうに言う。

 瑞希からは、どこか雑に扱われている優一だが、朱里たちにとっては世界的なバレエダンサーである。優一や名門青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリンシパルである瑞希や恵人が近くに来たことに緊張と興奮が入り混じっているようだった。

 朱里あかりや奈美たちからすると、稽古場やリハーサルで見る瑞希や優一たちは一緒の空間にいても、どこか別世界にいるような存在だったが、こうして食事の場で傍に来ると、さすがに、どう接していいかわからず、ただ緊張するばかりだった。

それを察した瑞希が朱里たちに微笑み、

「朱里ちゃんと奈美ちゃんと詩音ちゃんだったわね。三人とも凄いわね」

 と言うと、朱里たち三人は大きく首を振り、

「いえいえ、とんでもないです」

 と言う。

 そばでその様子を見ていた園香にも朱里たちの気持ちがよくわかる。思い出してみれば、美織や瑞希、優一が最初に花村バレエに来たときは、彼女たちに対して、どういう距離感で接していいか分からなかった。

 それでも瑞希は気さくな性格で、まるで友達のように話し掛けてくれる。瑞希のおかげで、すぐにその場が打ち解ける。

 朱里たちも、いつの間にか友達かお姉さんのように瑞希と話をしていた。


 周りを見ながら、改めて恵人が園香に、

「疲れてない?」

 と聞く、園香は微笑んで、

「大丈夫」

 と返す。周りの皆を見ていると、なんだか疲れを忘れてしまえる気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る