第48話「交渉成立だな」

「妹の店でセキュリティプロトコルが作動してるだあ?アイツは無事なのか?」

「それは未確認だ。此処から見る限り、お手製のボットが元気に活動してる。奥の扉に破られた形跡は無いから、中に居るなら安全な可能性が高い。」

 

 取り合えずホランドへ相談と報告をする事にした俺は、軽く現在の状況を説明した。


「シャッターも中の扉も特別製だ。そこが閉まってるなら、生半可な火器じゃ歯が立たないはずだ。」

「それは一安心だが、俺も彼女に接近出来ないだろ。周囲の敵は全員排除しているが、時間を掛けると直ぐにまた囲まれそうだ。」


 ホロ通信の半透明なホランドはまさに驚愕と言った表情をしており、何時店を飛び出しても可笑しく無さそうだった。


「取り敢えず、そっちも籠城の構えを続けてくれ。セキュリティボットは最悪、破壊してでも店に入るよ。彼女が生きてるなら、何とかして店へ連れて行くから。」

「あ、ああ、分った。セキュリティプロトコルは管理者IDを持つ物は攻撃しない筈だ。今、その端末に貸与する。それと、アーマーの襟に俺のサインが刻んでる。それを見せればアイツも話を聞くはずだ。」


「分かったよ。後は任せてくれ。」


 焦燥したホランドからIDを貸与された俺は、ホコリやら建材の粉やらゴミやらで汚れた床から立ち上がり、目の前の建物へ歩く。

 レベッカの店はガレージがメインなので入口は広いのだが、ボットがガラクタを使ってバリケードを設置している上に開き切って無い所為で、奥まで見通す事は出来なかった。


 依然として彼等の持つブラスターの銃口は俺へと向けられており、ロボットの読みにくい顔が俺を見詰めいている。

 転移したての頃よりよっぽど図太くなった神経のお陰で、二つの銃口を無視して店へと近付いた。


 堂々と接近する俺に対し、ガレージの上部に取り付けられた火災報知器の様なセンサーモジュールがセキュリティスキャンを行う。

 室内の気温や空気組成の変化を通じて室内を監視する機械が、対侵入者用のセンサーとして働き、頭の先からつま先まで入念に調べられる。


 その装置に向かって携帯端末を向けると、此方が正規のIDを貸与されている事が分かったのか、ボット達はブラスターの銃口を下げた。


「第一関門は突破だな。後は中を確認して、彼女が居たら連れて行くだけだ。」


 俺は歩き辛い店内を奥へと進んで、例のシェルターらしき部屋を目指す。


「ガス、ミックへ傭兵共の殲滅が出来そうならさせるんだ。テネブリアンを使っても良いと言ってくれ。操縦権限を一時的に譲渡しても良い。それが終わったら、何処かでピックアップして貰わないとな。」

「了解しました。操縦権限の一時的な委譲を行います。」


 目指していた部屋はやはりシェルターらしく、扉の近くにはインターフェースが備わっており、内部と連絡が取れる様だ。

 俺は目立つように大きいボタンを押して、カメラらしき物にアーマーの襟を見せる。


「で、アンタは誰さんな訳?兄貴の関係者ってのは分かったけど。」

「俺は、ホランドに妹のアンタを探す様に依頼された何でも屋だ。周りに居た奴等は、俺と部下が一時的に退去させた。今なら兄貴の元へ行くのに武装したエスコートが付くが?」


 インターフェースの小さいモニターには、兄の厳つい顔からは想像が出来ないほど野性的な美しさを持つ女性が映った。

 上の作業着を腰に巻いてタンクトップ姿の彼女は、人間に比べて大柄な体躯とそれに見合った胸部を誇り、それを一対の腕を組んで持ち上げていた。


「分かった。いつまでも小部屋に隠れて震えてるのは癪だ。兄貴の所まで連れて行ってくれ。」

「交渉成立だな。必要最低限の荷物を纏めてくれ。腕が自分より少ない相手に荷物持ちはさせるなよ。」


 彼女は真剣な表情で俺の質問に応えると、それに対する返事には答えずに立ち去って行った。

 モニターから彼女は消え室内の様子だけが映るので、俺はインタフェースから離れ暫く待つ事にする。


「待たせたな。エスコートしてくれるか?」

「勿論だ。」


 手に入れたブラスターライフルをしていると、シェルターの扉が開いて待ち人が出て来た。


「追加のアホ共が来る前に此処を出よう。」

「頼んだぜ。」


 彼女は肩や胸の部分に小型で六角形の機械が幾つか着いた、赤いレザージャケットを羽織っており、パンクで威圧的な印象を受ける。

 メッセンジャーバッグとマルチツールのケースを持った彼女の眼には、この状況を乗り切ると言う強い意思が宿っている様に感じる。


 俺は彼女の前を歩いて店を出る。どうやら、セキュリティボットは此処に残して行く様で、着いて来たのは彼女だけだった。

俺は開け放たれたシャッターを潜って外に出た。太陽は頭上でその仕事を盛大に熟しており、熱波がアーマーの表面を焦がす様だ。


 視界は高性能なセンサーモジュールのお陰で、太陽光による焼き付けを回避出来るのでする必要は無いのだが、つい癖で額の部分に掌で陰を作ってしまう。

 そんなセンサーモジュールは外部に生体反応を捉えず、ガスからの警告も無かったので安全と判断し、もう数歩だけ前へ進んだ。


 レベッカの店は奥まったT字路の終点にあり、周りは住居で囲まれ、細い裏道も多い為、建物内や建物同士の間等から奇襲を受ける可能性が高い。

 十分な用心をしていた筈だが、敵は一枚上手だった様だ。


 俺の頭部にブラスターの弾が直撃した事を認識する前に脛と胸部のアーマープレートに衝撃が走る。

 俺に出来たのはその場に立ち尽くし、店を出る寸前のレベッカを背後に隠し、自分の身をギダル合金と肉の複合材で出来た壁として差し出す事だけだった。

 

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