第44話「保護対象の安全を確保するか」
住居から出た所で、道路に倒れ伏して居たチンピラ達の姿が眼に入ったので、ピクリとも動かない彼等とその周辺をスキャンしてみる。
どれも生体反応は消失しており、手を煩わせる事が無さそうだと判断した。
最初は彼等の一人が手にしていたサブマシガンタイプのブラスターを拝借して、戦力の強化でもしようと考えたのだが、スキャン結果を見て考えを変える事にした。
彼等が装備していたブラスターは、街の外で襲って来た砂賊共が持って居た物よりも、かなりお粗末な代物と言わざるをえない。
樹脂系の安価なメタルによってその殆どを構成されたブラスター達は、安いプリンターで作られた使い捨ての品だと解析結果に表示されていた。
密造品らしきそれ等の銃器はどれも酷い状態で、彼等が整備や清掃と言った言葉を知らない可能性を示唆している。
フレームに罅が有るだけならマシな方で、中には剥き出しのエネルギー収束バレルの冷却機構が上手く作動せずに若干だが膨張している。
その所為で内部の高エネルギーガスを扱うコリメーター回路が、正常に機能していない。不発ならマシな所で下手をすると暴発する可能性も有る。【機械修理】のスキルが警告を発している様にそれらの事が分かった。
もしも、その様な品を安全に扱いたいのであれば、この場に有るブラスターの全てをバラバラに分解し、使用に耐えうるバーツを選び出して一から組み直すしか無い。
勿論、そんな時間も工具や設備も無い事は言うまでも無いだろう。
俺は彼等の一人が持って居た、1.5m程のメタル製の棒だけを頂く事にした。
この星では一般的に建物の建材として使用されている様で、彼等の様な物を大事にしない質の人間には、人気の品らしい。
俺が手にしたのは、暴力を生業とした彼等の嫌な拘りが幾つか施されており、只の棒から簡易な槍に成っている。
先端は斜めに鋭く切断されたており、中央にはビニールテープの様な物で作られたグリップが有る。
そして、この槍の最大の目玉と言えば、その石突の先に設けられた凶悪な放電機構だ。
ブラスターからパワーパックや動力ケーブル等のパーツを流用して組まれたそれは、人体をこんがりと焼き上げるだけで無く、高レベルの絶縁処理がされていない機械やロボットに対して酷く暴力的な結果を与えるだろう。
機械修理のスキルが放電機構に幾つかの修理をした方が良いと教えてくれるが、あえて無視しておく。
背中のアーマープレートへ手にした槍を斜めにマウントし、レベッカの職場へ近付く為に移動を再開した。
「ジョン、高所からマスライフルの発砲を確認しました。ミックが敵性勢力へ攻撃を開始した様です。」
「発砲地点を此方で確認し、彼が賄えない範囲をカバーしてあげようかね。」
ミックが敵の狙撃手から入手したマスライフルとは、実体弾頭を使用する火器の中でもレールガンやコイルガンの様な磁力を使用する物に使われている。
マスライフルの主なターゲットは、アーマーを着た歩兵やミックの様なロボット等の低装甲目標なので、彼の報告に有った様な板金鎧の集団にもダメージを与える事が出来る。
「ミックの位置情報を取得しました。発砲地点は此処からかなり離れています。敵性集団は彼に釣られたのか、少数を残して移動して行きます。」
「彼を連れて来て正解だったな。中々、仕事が上手じゃないか。残った少数を狩って保護対象の安全を確保するか。」
ガスの報告でミックの目的が読めたので、俺は彼の邪魔に成らない様に行動する事に決めた。
敵の位置自体はガスが既に捕捉して居るので、静かに近づいて倒してしまう事にした。
ガスが俺の言葉を受けて表示した地図によると、敵は少ない人員で店を囲んでいる為、それぞれの距離が広がっている上に少数ずつにバラけて居る。上手く隠密行動を取って各個撃破して行けば一方的に殲滅出来そうである。
ただ、その前に此方へ近付く一団を殲滅する必要が有りそうだった。
メットに表示されているマップ上には、五つの敵性勢力を示すマーカーが表示されており、それは此方に向かってきている。
詳細を見る限りではチンピラ集団の仲間らしく、先程倒した奴等と似た様な装備と服装をしていた。
奴等にはそう言うルールでも有るのか誰も危機感を抱いて無い様で、通路をゆっくりとした速度で固まって移動しており、スキャナーも使用して無い様だ。
その気の抜き様を見る限りでは、仲間が殺られている可能性を微塵も考えて無いのだろう。
ここ等辺の道は入り組んでいて見通しが悪いので、奴等は味方の死体を発見するのは此処まで来てやっとだ。
もう少し進んだ所で待ち構えておくと、奴等に奇襲を掛ける事が出来るだろう。爆発物が手元に無い事が残念でならない。
相手が来るまで少し手持ち無沙汰に成ってしまい、何となくブラスターピストルを弄る。
軍に正式採用されていた由緒あるブラスターピストルの民生品モデルのそれは、軽量メタルスライド、特殊樹脂系メタル製マググリップ、簡易量産型の安価なFCSが追加で組み込まれたカスタムモデルだった。
板金鎧風のアーマーで身を守っている奴なら兎も角、これから相手にするチンピラ相手なら、このブラスターは十分に仕事をしてくれると信頼出来る。
予定地点までの短い距離を歩いた俺は、ブラスターピストルを右の太腿に固定し直し、獲物の到着を待った。
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