第41話

「ミック、仕事を再開するぞ。徒歩で移動するから、俺の反応を追いかけて来い。何らかのトラブルが発生した時は、第一集結地点をレベッカの職場とする。第二集結地点はホランドの店だ。」

「了解しました、ボス。移動を開始します。」


 俺は朝食を食べ終えアサルトブラスターやスマートボム等の厳つ過ぎる物以外を身に着けると、テネブリアンは保安装置が機能している駐機場に預けたまま市場へともどる事にした。

 成るべく簡素に纏めた内容をミックに通信で伝え、テネブリアン自体の防犯装置も起動して駐機場を離れる。


 朝食を買った時よりも更に人通りが少なくなり、歩きやすく成った市場を歩くと元の世界では見られない様な露店に目が行く。

 食用か愛玩用か分らないクリーチャーを売る店や浄水用のフィルター等の消耗品を売る店、円柱状の住居用メンテナンスロボットを売る店等、興味が尽きる事は無さそうだった。


 都市の外縁部で開かれていた市場と違い、ブラスターやナイフと言った凶器は大っぴらに売られておらず、客層も落ち着いたものだ。

 この辺りの民族衣装らしき物を纏ったヒューマノイド系のご婦人が、野菜もしくは果物の様な植物を売る露店を覗いていたり、スーツの様な服を纏った男性風エイリアンが、日除けが張られた店先でクッションに身を預けながら水タバコの様な物を味わっている。


「ガス、俺達も本格的な拠点を手に入れたらああ言ったロボットでも購入するか?」

「良いですね。従者用のハイエンドモデルを購入しましょう。」


 ガスと会話しながら歩いていると、向こうからミックがやって来るのがメットに表示される地図から読み取れる。

 自由時間を与えられた彼は市場でショッピングを楽しんだらしく、その肩には市場で購入したのか見た事が無い大振りのナイフがシースに入れられて取り付けられていた。


 ククリ刀の様な湾曲した形状のナイフには、刀身にエネルギーを使う様な機能があるのか柄にスイッチとバッテリーパックが付けれらている。

 チンピラから頂いたナイフは売ったのか、左胸から姿を消している。


「ボス、追加のスキル修得を申請したいのですが宜しいですか?」

「ガス、中身を確認してくれ。内部に問題が無く、修得に時間を要しなければ、そのまま覚えて良いぞ。」


 俺はミックが差し出すUSBメモリの様なデータストレージを受け取り、内部の確認をガスに任せ結果がメットに表示されるのを待つ。

 暫く目的地に向かって歩くと、解析完了と修得可能の表示がメットに現れた。


「何々、【上級猟兵技能】か。俺達みたいな少人数での活動に向いてそうな技能だ。でも、今のお前に搭載されてるセンサーや火器管制装置だと十全に力を発揮出来そうに無いな。それに駆動系の騒音も足を引っ張りそうだ。これは要改造だな。楽しみが増えた。」

「最低限の能力を発揮するのに必要な、物品のリストに成ります。よろしければ御一考下さい。」


 メットに表示されるスキルの概要を読むと、敵対勢力圏内で最小限の人員を率いての破壊行為やハラスメント行為を行う兵士に関するスキルらしい。

 敵地への潜入や長距離狙撃に爆破と物騒な事に関する技術で作ったお子様ランチの様な内容だった。


「こんな高価そうな物を何処で手に入れたんだ?其処等の露店で売ってる様な代物じゃ無いだろう。あの地下倉庫から持ち出したな?他に何を持ち出した?」

「その通りです。他にも幾つかのデータストレージを持ち出しました。」


  俺からの質問にミックは直ぐに答え、彼が持ち出した物のリストも同時に送って来た。

  リストにはどれも有用そうなスキル名が並んでおり、何らかの取引やミックを強化するのに十分役立ちそうだ。


「取り敢えず、これを先に修得してくれ。ハードの更新は追々やろう。」

「ボス、ありがとうございます。」


 自身の戦力強化の可能性にワクワクしながら、ミックにデータストレージを返すと、彼は受け取ったそれを自身のうなじ付近にあるポートに刺し込み、新たなスキルの修得を始めた。

 複雑な動きで無ければ修得中でも行動出来るのか、彼は歩行を続けているので気にする事は止めて、目的地へと移動を再開する。


 ミックのスキル修得状況はメットに表示されており、順調に進んでいる事が一目で分かる。どうやら、全ての工程が終わるのは目的地直前に成りそうだ。

  歩き方がぎこちないミックを引き連れて暫く市場を進みながら、露店や店舗の売り物を見ていると、店員や客が若干ながら此方に警戒の眼を向けている事に気付き居た堪れなく成る。


 俺は、周りの視線から逃げる様に歩くスピードを上げ、市場を進みレベッカの店が有る通りに続く横道に入った。

 少し進むと明るかった雰囲気が落ち着き、露店や店舗が少なくなるにつれて歩く人も少なく成って行く。


「ガス、周りの警戒をミックの分まで頼む。何か空気が悪い気がするんだ。」

「了解しました。アクティブスキャンの間隔を調整します。」


 ガスに警戒の指示を出して進み続けると、まるで何かを避ける様に人が少なく成り、数少ない商店も全て閉まっている。

 そして、目的地が目前と成りミックのスキル修得が終わった頃、センサーモジュールがブラスターの発砲を検知した。

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