無類の女好きの俺。ライバルと戦っていたら学園一の美少女お嬢様に一目惚れされて告白されたんだが

さくらみお

第1話



 俺の青春は合格発表時に見知らぬマダムからドロップキックを喰らったため、2ヶ月遅れで始まった。


 原因は俺の無類の女好きにある。

 俺は可愛い女の子であれば、一秒で惚れる自信がある。


 それでも小学校低学年までは、俺が「すき!」と言えば向こうも「私もすき!」と応えてくれて両想いになれた。


 手を繋いで帰ったり、一緒に道端に咲くツツジを吸ったりした。

 (何故か翌日には告白自体を忘れられるが)



 中学年以降になると、俺が「好き!」と言っても「ありがとう」と笑顔で答えてくるものの、それ以上の進展は無し。



 高学年以降になると、俺が「好き!」と言っても「は? 好きじゃない」とか「めんぞう君とは付き合えない」とはっきりと断れるようになった。



 中学生になると、俺が「好き!」と言ってもゴキブリでも見るような目つきで「ムリ」「イヤ」「○ネ」と断る字数も二文字となり……どんどんと雑&塩対応されるようになった。



 ――そして、中学三年生の秋。



 いくら努力しても恋が成就しない俺は、幼馴染みの女の子・亜美に相談したのだ。


「なんで、俺って振られるのかなぁ~?」

「逆にめんぞーが振られない理由が知りたい」


「はて?」



 やや痩せ形で身長も173cm、顔は……まあイケメンでは無いが、物凄く不細工って訳でもない。


「ここにある、ほくろのせいかしら?」


 おでこのセンターに鎮座するほくろを指さす俺。

「ばーか」と冷たい返答をする亜美。


 見た目はショートカットの涼やかな目を持つ、クール系美少女の亜美。

 性格まで冷たい。


「めんぞーは『下品』なんだよ」

「ちょww、お前www、下品ってなんだよww」


「節操無し。どんな女の子にもホイホイと声掛けて。女の子はそういう男が世界で一番大嫌いなんだよ」

「せ、世界で一番大嫌い?!」


 大ショックを受けた俺。

 その日から『品』とやらを猛勉強する。


 そして辿り着いた先は『高嶺乃華たかねのはな高校』だった。


 去年まではセレブお嬢様御用達の女子高だったが、少子化の影響で今年から男子も受けれているらしい。奇跡的僥倖!


 お嬢様と言えば気品の権化、塊。

 その中に紛れれば俺にも品とやらがつくかもしれない。


 俺はお嬢様……もとい『品』を手に入れるための必須スキル『お勉強』とやらを脳みそにこすり付けた。


 やがて擦り付けに成功した俺は合格を勝ち取り、受かった喜びのあまりに受験発表の場に居た女の子達に片っ端から愛の抱擁を求めていたら、どこかのふくよかマダムに「エル・フィン・ドール!!」と叫ばれながら飛び蹴りを喰らわされて緊急搬送。




 そして、一足遅れての青春アオハルスタートとなったのだった。





 ★





「あーあ、今日から平和が乱される……」


 高嶺乃華高校の上品な紺セーラーに身を包み、大きなため息をつく亜美。

 俺もまた真新しい紺色の学ランに身を包み、高校の入口へと足を踏み入れた時――。



 全身に電流が走り、思わず学生鞄を落とした。



「――っ!!」



「……めんぞー、鞄落ちたけど?」




 俺の数メートル先には今まで見たこともない超絶美少女が佇んでいた。



 まっすぐストレートな黒髪に零れる様な大きな黒目。

 真っ白な肌に赤くのった赤い唇。

 細身なのに、セーラー服を着ていても分かってしまう揺れる巨乳!


 俺の心の動揺はすぐに亜美にも伝わり「ああ……」と呆れた声を吐く。


「あの人は、二年生の白百合しらゆり花蓮かれんさんだよ」


「花蓮、ちゃん?」


「不動産白百合グループ総裁の御令嬢で、この学校の理事長の姪っ子。正真正銘のお嬢様だって」


「お、嬢様!!」




 ――あきら免蔵めんぞう、生まれて十五年。



 今までたくさんの女を愛して来たが、電流が体に走ったのは初めてだった。


 この子こそ俺の運命の人なんだと、体が愛を叫んでいる様だった。


 俺は恋の万有引力に引っ張られる様に、花蓮ちゃんの方へと足を進めれば、いきなり現れた紺色のバリケードが俺と花蓮ちゃんを引き裂いた。



「――!?」

『これ以上先は、通さん!!』



 どこから現れたのか?

 俺と同じ一年生の赤バッチをつけた男どもが十数人現れたのだ。


「通せ! 俺は、花蓮ちゃんに愛の告白を……!」


「だから通さんと言っているだろうが! 花蓮さんは我々の女神であり、アイドルであり、マドンナであり、象徴なのだ!」

「んな、天皇陛下じゃあるまいし」


「とにかく、花蓮さんは不可侵な存在であるのだ!」


「斬新者は去れ!」


「お前らだって、斬新者だろうが! 一年ボーイズ!!」


 亜美は「さっそくお友達出来て良かったね。あたし、先行くわ」とさっさと教室へと向かう。


 どこをどう見て聞いたら、こいつらがお友達なのか!


 大勢の一年生野郎と睨み合いの攻防戦を行っていると、一人、白い手袋にたすきを掛けた男がスッと間に入って来た。



 ……説明したくないけれど、眼鏡のイケメン。

 以上。



 そのたすきには『花蓮さんを見守り隊、総長・面構つらがまえ芳雄よしおと書かれていた」


 眼鏡のブリッジ部分をクイと上げた芳雄よしおは白い歯をキラリと光らせて言った。


「……君の噂は聞いているよ。合格発表時に多数の女子にセクハラして、通りすがりのマダムからドロップキックを喰らい複雑骨折、入院をした、あきら免蔵めんぞう君だね?」


「その通りだぜ!!」


「くくく……君が初登校する今日、花蓮さんに声を掛ける事はすでに予想していた」


「なにぃ?!」


「僕たちは花蓮さんの元へお前を近づける事は、絶対にしない!!」


 再び眼鏡のブリッジをクイと上げる芳雄。


「望むところだ!! 俺はお前たちを倒して花蓮ちゃんに告白する!!」



 バチバチと俺と芳雄の間に緊張感と火花が散る。



 ……キーン、コーン、カーン、コーン♪



 始業開始のチャイムが試合開始のゴング代わりに鳴り響いた。


 俺と見守り隊は一斉に殴りかかる勢いで突撃した……――。


 ――その時。


 俺の視界の際に迷彩のツナギを着た白髪の好好爺が見えたのだ。


「おじちゃん! 危ないから退いていて!」


「……」


 しかし退くどころか、どんどんと抗争に近付いて来るおじいちゃん。


「おじちゃん! 巻き込んじゃうって!」


 笑顔を崩さないおじいちゃん。

 抗争の目前まで来るとピタリと足を止めて信じられないデスボイスを響かせた。



「……我、高嶺乃華学園、用務員也。主等、規則時間無視故、我、抹殺致也」


 何やら呪文? を唱えたおじいちゃん。

 突然光出す。



『――!?!?』



 おじいちゃんの奇行に動きが止まる我々。


 ほうきを掲げ、金色に光るおじいちゃんの背後に千寿観音が見えた。


 そしてニイと微笑むおじいちゃんの顔面が俺の真正面に迫っていて――……。

















「――……はっ!?」



 ――気が付けば、俺は1ー3の教室の床に転がっていたのだった。

 いつの間にか出来ていた頭のタンコブと一緒に。


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