第29話 相談

 鷲羽先輩は「君はもっと色々な人間と関わった方が良い」と言った。

 きっと、今がその分岐点だ。


「ねえ、父さん。ちょっと、話があるんだけど」

 日曜の夜、夕食を食べた後、僕は父に人生相談を持ちかけた。

「そうか、やっと話してくれるんだね。最近の宇宙はいろいろと気持ちの変化があったみたいだから、気になってたんだよ、何があったのかなぁって」

「うん、いろいろとあったよ……」

 僕は父に今までのことを話した。

 浅羽さんのこと、大久保君のこと、それから劇のこと。

 父は僕の話を黙って聞いていた。

「ねえ、父さんだったらどうする? 浅羽さんたちに自分の気持ちを話すべきなのかな……」

「それは宇宙が決めることだよ」

「僕は……」

 分からない、僕たちがどうすれば幸せになれるのか。

「悩み事がある時は、星空を見るといいよ」

 父は僕をベランダに連れ出した。

 星好きな父が、星空が見えるようにと、リフォームさせたベランダであった。

 周りが住宅地なので、あまり雰囲気が出ないけど。

「この無限に広がる星空を見ていると、自分の悩みなんて小さいものに思えてくるよ」

 確かに、この星空に比べたら僕の悩みなんて、ちっぽけなものなのだろう。

「……でも、僕にとっては大きな悩みなんだ」

「うん、そうだね。僕たち人間は小さなことですぐに悩む。……皆、悩んでるんだよ。宇宙も浅羽ちゃんも大久保君も。悩んで悩んで、皆、毎日を生きているんだよ」

 父の声が穏やかに僕の耳に響く。

 あの時も、母さんが死んでしまった時も、一緒に星空を見た。

 父の昔のサークル仲間が働いている天文台へ行って、満天の星空を見た。

 本当は自分が一番悲しい筈なのに、僕を励ましてくれた。

 

『母さんは、お星様になったんだ。あの広い星空で今も輝いている。……悲しいことや嫌なことがあった時は星空を見ればいい。母さんがきっと励ましてくれる』


「母さん……」

 母さんは僕が六歳の時に死んでしまった。

 でも、母さんの温かい笑顔は今でも覚えている。

 思えば、浅羽さんの笑顔は母さんにどこか似ていた。

 きっと、僕はそこに惹かれたんだ。

「大丈夫だよ。宇宙には僕と母さんがついてる。宇宙が一番いいと思ったことをすればいい」

 僕が一番いいと思うこと―――――。

「ありがとう、父さん」

 

 皆が幸せになればいい。

 僕達の物語がハッピーエンドになればいい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る