第23話 初恋
「もう、真斗くんは。……あっ、参考までに聞くけど、二人の初恋っていつ?」
浅羽さんは話を変え「ねえ、宇宙君」と僕に話を振って来た。
「初恋かぁ……」
「うん、男の子の初恋ってどんなのだろうって気になって。……あ、言いたくないなら言わなくてもいいからね」
まあ、僕にも初恋はあった。
「言うよ。でも、笑わないでね」
結論からいって、初恋は実らなかった。
「もちろん。笑う訳ないよ。……ねっ、真斗君?」
「ああ、絶対に笑わない」
「……幼稚園の時に、いつも優しくて綺麗な先生に恋をして、それなりに気を引こうとしたけれど、その先生はお嫁に行ってしまった。幼い僕の心は、失恋の悲しみを味わったっていうバッドエンドな話だけど」
二人は全く笑わずに聞いていた。
「……って、あれ、笑わないの?」
「笑わないでって言ったの宇宙君だよ」
「笑う訳ないだろうが。それに笑えるって話でもないだろ」
まあ、そうだけど。
「いや、中学の時、同じ部活だった人達にこの話したら大爆笑されたから……」
「え~、可愛い初恋のお話なのに。笑うなんて、ひどいよ」
「て言うか、宇宙って中学の時は部活入ってたんだな。ちなみに、何部?」
「私は宇宙君から前に聞いたんだけど、すごく変わった部活に入ってたんだって」
「変わった部活?」
「まあ、部活というよりは同好会みたいなものだったんだけど。自分たちで作って勝手に活動してたし」
勝手に解散もしたけど。
「へえ、中学の頃は活動的だったんだな。で、何同好会?」
悪かったな、今は消極的な帰宅部で。
「……心霊研究会。半ば無理やり入れられて、いろいろと大変だったんだよ」
本当に彼らには振り回された。
「心霊研究会か……。どんなことしてたんだ?」
「怪しげな黒魔術の儀式とか、心霊スポットの調査とか、夜の学校に忍び込んで怒られたこともあったなあ。テレパシー実験とかいって放送室を占拠したこともあった。あの時は、こっぴどく怒られたなあ。あと、普段は心霊について議論したり、どうでもいい話とかもしてたよ」
今思い出しても、間違いなく人生の中で一番怒られた期間だった。
「……凄いな。いろんな意味で」
「まあ、なんせ黒魔導師と超能力者がいたから」
「ほ、本物?」
「絶対にエセ。二人とも自称だし」
これは、はっきりと断言できる。鷲羽先輩に至ってはサイキックという意味での超能力者ではないと言っていたし。
「……お前、よく辞めなかったな」
「最初は辞めようと思ったさ。僕以外の無理やり入れられた人達は、皆すぐに辞めたけど」
それはもう逃げるように。
「でも、宇宙君は辞めなかったんだよね。何で?」
これは浅羽さんにも話してなかった。
「僕がいなくなると、あの人たちが暴走しそうで心配だったんだよ。ストッパーみたいなもんかな。……まあ、特にすることもなくて、ヒマだったしね」
「何だよ、その理由」
「もう僕の話は終わりにして、脚本考えようよ」
その日は、ラストはまた後に考えることにして、一つ一つの台詞を考えたりした。
さっきは言えなかったけど、きっと多分、僕はあの変人たちとの会話が楽しかったのだろうと思う。
心霊研究会だった割に実際にオカルト体験が全く起こらなかったあの頃に比べ、今はしずかとしょかんという不思議空間に入り浸り、自然と魔法の存在も信じるようになった。
もしまたいつか二人に会えたら、魔法は本当にあったと伝えたい。
今は何をしているかは知らないけど、元気でいてくれたら良いと思う。
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