第60話 アヴローラ

  四人の傭兵は丘の上の屋敷の中へ入っていく。


「中は結構きれいだぞ、頑丈そうな造りだ」


 窓から暖かな陽光が屋敷の内部へ注いでいる。


「あっ!」


 杖を持った男が声を上げ、突然走り出した。


「急に走るな!何があるかわからんだろ?」


 リーダー格の背の高い女が走り出した男をたしなめる。


「女物のパンツが落ちてます!」


 金髪で赤目のシェイマの傭兵ベネラが先行していた男に近づき、床に落ちていたピンクの下着を拾い上げる。


「高そうな下着だ、何でこんなところに?……このショーツ香水の匂いがする」


「罠ではなさそうですが……」


「香水の匂い?というか……屋敷の奥の方から微かに甘い匂いがしないか?」


 ……少し先の床に剣と皮鎧と衣服が落ちていた。


「何だこれは?……誰かここに来たのか?」


「よくわかんねぇがとにかく奥を調べるぞ」


 四人は廊下を奥へと進んでいく。


「金目の物ありませんかね?」


 男が廊下の途中にある部屋を物色する。


「あっ!」


「どうした!?」


「さっき女の子いませんでしたか?」


「本当か?探知術式に反応はねぇぞ」


「ああ、確かに見た……一瞬だったが部屋の奥の廊下に人影があった」


 ベネラも何かを見たようだ。


「おれの探知術式には何も引っかかりませんねリーダー」


 杖を持った男が応えた。


「……まあいい、進めばわかる……警戒を怠るなよ」


「了解」


 四人が警戒しつつ、屋敷を進んでいくと大きな広間に辿り着いた。


「人の気配は……ねぇな」


「ここの広間の床の石は金がかかってそうですよ」


 男が杖で石造りの床を叩く。


「この村、昔は銀山で儲かってたんですよね?隠し扉や隠し階段があって、お宝でもないもんっすかねぇ?」


 男は広間を物色する。


「隠し宝物庫があったとしても王都に移住するときに金になるものは全部輸送しただろ」


「まあ、そうっすよね……」


「……!誰だ!」


 ベネラが何者かの気配を察して振り向く……先程四人が通って来た廊下側の広間の入り口に白い服の少女が立っていた。


「お前は誰だ!?何もんだ!?」


「わたしは魔女……魔女アヴローラ」


 アヴローラと名乗った銀髪の少女は左手を上げた。すると床から岩盤がせり上がり広間の出入り口を塞ぐ。


「閉じ込められた!?お前が……」


 男が言い終わる前に銀髪の魔女は瞬時に男の背後に回り、男の背中を軽く叩いた。


「うっ、ぐっああああああああ!」


 魔女アヴローラに身体を触れられた男は床に倒れこみ絶叫を上げながら、のたうち回る。


「熱い!熱い!アツぃぃぃ!!!」


「何が起こった!クソ!」


 リーダー格の背の高い女が銀髪の魔女に炎弾を放つが結界により阻まれる。


「おい!退路を確保しろ!」


 杖を持った男が窓へ走る。


「減速術式……」


 魔女アヴローラが再び左手を上げると、石壁がせり上がり窓を塞いだ。


「くっ!駄目だ!」


 ベネラが魔女に斬りかかるが、せり上がった石壁に防がれる。ベネラの足元の床が泥のように溶け、彼女の足を飲みこもうとする。


「まずいぞ……これは……」


 倒れこんでいた男が息を乱しながら立ち上がり、小瓶を魔女に投げつけるが、魔女アヴローラは難なく男の攻撃を回避する。


「わたしの仕掛け、そろそろ効いてきた……?」


 魔女アヴローラは呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る