第3話 傭兵アンリ2
「いや、アンタが美人だからさ」
「誉めてくれて嬉しいね…………だが
君も女を知らない男じゃないだろう?」
女は胸をアンリの背中に押し付け、ルビー色の瞳でアンリの顔を覗き込む。
「アンリ君、声が震えているね
そして、女に隠し事をしているときの男の顔をしている」
カイロはアンリの手首を強く押さえつける。
……アンリは決して非力な男ではない。体格ではこの女よりも彼に分があるはずだが、彼はこの女の手を振りほどくことが出来なかった。
「あんた……人間か?」
「傭兵稼業している人間ならわかるだろ
私は人間じゃないよシェイマさ」
シェイマは高い身体能力にもつ種族である。
……古代のエルフ達の間ではシェイマはアマゾネスと近縁の女だけの戦闘種族で
人間の男を襲って繁殖すると信じられていた。実際は女だけの種族ではなく少数ながら男もいるうえ
シェイマと人間との間に子供は生まれないのだが。
「君も傭兵なら知ってるだろうけど
我々シェイマはエルフや君たち人間とは違って
魔術の源であるリゾームの感応値が低くて魔術を行使するのが苦手なんだ
その代わり……覚醒という能力があるんだ」
アンリの手首を掴んでいた女の手が震えはじめた。女の鼓動が速くなっていく。
「……うっ、ぐっ……はあ……」
女は苦しそうな声をかみ殺し肩を震わせる……彼女の額とうなじから汗が流れ落ち……嗅覚を刺激する甘い女の匂いがひろがる。そして、アンリの背中に押し付けられた女の胸が少しずつ大きくなっていく。
「……はあ……はあ……シェイマの覚醒は身体能力と感覚を強化するシンプルなものさ……で、覚醒して感覚が強化された今の私には君の鼓動が手に取るようにわかるってわけだ、今までよりもね
……ああしかし、この体の底から力がみなぎってくるような性的快感とも違う何とも言えない多幸感
出来ることならアンリ君、君にもあじあわせてやりたいな……
ああそれと……どういうわけだか知らないが人間の男は覚醒した我々の体と交わると男としての性機能が喪失したり肉体が女性化したりするらしいね……ああ、勘違いしないでくれ
私は義賊や正義の味方を気取るわけじゃないけど、無暗に人を傷つけたりはしない主義なんだ
世の中にはシェイマを殺して奪うことしか能のない野蛮な種族だと言う連中もいるが……まあ確かにシェイマの中にはそういう荒くれ者がいるのは否定しない
だが、私はそういう衝動のままに行動する荒くれ者共をシェイマの恥さらしだと思ってるんだ……君だって女をいたぶる趣味をもっている男を軽蔑するだろう?」
カイロはより蠱惑的に変異した肉体をアンリの背中に押し付けたまま
アンリの手首を掴み、彼の手の平を人差し指で撫でる。
「で、あんたは何の用なんだ?」
アンリは平静を装うも少し声が震えている。動揺が隠せていない。
「私は我々の組織から金を奪った奴を探してるんだ。
アンリ君、君はこの辺の人間のこといろいろ詳しいだろう?
君なら何か知ってるんじゃないかと思ってね」
「いや、そんな情報ははいってないな」
「キーサって男を知ってるだろ……この辺で有名なチンピラさ
あいつらが我々の組織から金を盗んだんだ」
「キーサね、知ってるよ
でも、キーサや奴のチームの連中はしばらく見かけないな
もう遠くに逃げたんじゃないか?」
「いや、キーサの奴はもう捕まえた
……あの連中、今度何かやらかしたら潰してやろうと思ってたんだ
まあ、連中には落とし前つけさせたし、とられた金もおおかた回収した
でも、まだ襲撃部隊のなかに一人だけつかまってないやつがいるんだ
どうもキーサのチームの人間じゃないみたいだね」
「……」
「怖がらせるようなことをして悪かったねアンリ君、何かわかったら
このジェリコ連隊のシャイロ・カイロに知らせてくれよ、礼はするからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます