第225話 兄妹でお茶会

 ゲート出現時のことを説明するために王宮へ向かった次の日。私はリオネル、アリアンヌ、エルヴィールと共にお茶会をしていた。


 ノルバンディス学院の再開日が未定で、不安な中で勉学に励んでも捗らないだろうということで、お養父様とお養母様の提案もありお茶会を開催したのだ。


 しかし場所はいつものように庭園ではなく、屋敷内の一室になっている。学院でのゲート出現が街中とはいえ外だったことから、ゲートは外に現れるのだろうという認識が貴族社会に広まっているのだ。


 なので貴族街は本当に閑散としていて、出かける時もリューカ車からほとんど降りず、降りたらすぐにどこかの建物の中に入る。


「お姉様、もうお体は大丈夫ですか?」


 お茶を飲みながら窓の外に広がる綺麗な空をぼーっと見つめていたら、アリアンヌが心配そうに声を掛けてくれた。


「あっ、うん。大丈夫よ。ありがとう」


 私は一瞬だけ動揺したけど、すぐに笑顔でアリアンヌに笑いかけた。私よりも小さいアリアンヌやエルヴィールの方が不安感は強いだろうから、私は笑顔でいないと。


「外に出られないのは、少し残念ね」

「お外の方が気持ちいいよね〜」


 エルヴィールもいつもの元気がない。


「仕方がないよ。でもいつになったら日常が戻ってくるのか……」

 

 リオネルが呟いた言葉に、また室内の雰囲気が暗くなった。私も釣られて気分が沈みそうになるけど、一番年長の私がこんなんじゃダメだと、自分に気合を入れ直す。


「こんな時だからこそ、室内でしかできないことで楽しみましょうか。例えば……三人で一緒にリオネルを最高にカッコよく仕上げるのはどう? 私たちが服装を決めて、化粧もするの」


 アリアンヌとエルヴィールに視線を向けて提案すると、二人はすぐに瞳を輝かせた。やっぱり女の子はどの世界でも、着せ替えとか好きだよね。


「楽しそうですわ!」

「やりたい!」

「ちょ、ちょっと待って。レーナたちがお互いを着飾るのでも……」

「たまには男性を着飾らせてみたくなるのよ。ね、二人とも」

「はいっ」

「うん!」


 私の言葉にアリアンヌとエルヴィールが大きく頷いたのを見て、リオネルは諦めたように苦笑を浮かべた。


 私はそんなリオネルを見つつ、密かに拳を握りしめて気合を入れる。実は今この部屋には何人もの兵士が護衛として配備されているんだけど、その中にリオネルの思い人であるリディがいるのだ。


 リオネルを大人っぽく仕上げてカッコよくして、リディにいつもと違うギャップを見てもらおう!


「リオネル、この部屋に服や装飾品、化粧品を準備してもらうことはできる?」

「……分かったよ。すぐに準備してもらう」


 苦笑を浮かべたままリオネルが侍従に声を掛けて、皆が慌ただしく動き始めた。そこで私も近くにいたパメラに声を掛ける。


「パメラ、私用の化粧品も持ってきてくれるかしら。それからリオネルの侍従たちは準備が忙しいでしょうから、この部屋も整えて欲しいわ。服などを並べる台をあちらに」

「かしこまりました」


 パメラはさっそく部屋を出ると、侍女の手伝いや下働きをするメイドを数人連れてきて、素早く部屋の模様替えをしてくれた。


 さらに私用の化粧品の中から、リオネルに使っても違和感がないだろうものを選んで運んできてくれる。


「なんだか楽しくなってきました」

「早くお洋服えらびたい!」


 アリアンヌとエルヴィールは楽しそうな笑顔だ。


「二人とも、変な格好ではなく、恥ずかしくないようしっかりと整えるんだよ?」


 リオネルは張り切っている二人に向けて、必死に言い聞かせていた。アリアンヌは大丈夫だと思うけど、エルヴィールはちょっと心配かな……。


「もちろんです! お兄様をカッコよくしますね」

「豪華にしようね!」


 それからしばらくして準備が整い、私とアリアンヌ、エルヴィールはリオネルが見守る中で、まずは基準となる服を決めることにした。


 リオネルがいつも着ているような服がたくさんあるけど、いつも通りの格好にしても面白くない。リオネルは正統派王子様、優等生みたいな服装が多いから、ちょっと派手な感じがいいかな。


 イメージは……ちょっとチャラい王子様にしよう。


 なんだか楽しくなってきた。イヤリングとか指輪もいくつか付けて欲しいな。リオネルはいつもほとんど付けてないけど、サイズに合うものはたくさんあるみたいだ。


「お姉様、この服はどうでしょうか」


 アリアンヌが指差したのは、いつもリオネルが着ているような質が高いことは一目で分かるけど、落ち着いた雰囲気の服装だった。

 やっぱりアリアンヌは、貴族令嬢として適した感性が身に付いてるんだね。


「それも良いけど、たまには趣向を変えてこっちはどう? リオネルはあまり着ていない服だわ」


 私が指差したのは、鮮やかな赤い色に金糸の刺繍が施されたジャケットだ。そのジャケットに合わせたのだろう、黒地に同じ金糸で柄が入ったズボンもある。


「ごうかでいいね!」


 エルヴィールは賛成みたいだけど、アリアンヌは微妙な表情だ。そしてリオネルは腰掛けていたソファーから勢いよく立ち上がり、慌てた様子で口を開いた。


「な、なんでそれ!?」

「いつもと違う雰囲気にした方が、私たちが選ぶ意味があるでしょう? それにこの服も、たまには着ないと可哀想よ」

「そ、それもそうだけど……」

「この服はいつ作ったの?」


 その問いかけにリオネルは少し口籠ると、言いにくそうに教えてくれた。


「少し前にお母様が、遊びのある服も仕立てたらどうって仰って、それで……」


 お養母様って意外と遊び心があるんだ。


「それなら余計に着ないと。ほら、お養母様も喜ぶよ」

「えぇ……」


 リオネルは眉を下げながらも、一度ぐらいは着ようと思っていたのか強く反論はないようだ。私はそんなリオネルの様子に了承をもらえたと判断し、ジャケットとズボンを手にしてアリアンヌに視線を向けた。


「どう? アリアンヌは別の服が良い?」


 さっきは微妙な表情だったのでもう一度問いかけると、少し悩んだアリアンヌは首を横に振る。


「いえ、いつものお兄様と違う方向性の服装を目指すのであれば、それが良いと思います。お母様にもお見せしたいです!」

「そっか。じゃあこれにしよう。次に選ぶのは……シャツかな」


 それから派手なジャケットとズボンに合うシャツがないかを確認するため、三人で気に入ったシャツを手にして、次々とジャケットと合わせていった。

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