第202話 ゲートの役割?

 最近の不穏な状況を聞いて恐怖を感じていると、シュゼットが雰囲気を変えるように笑顔で手を叩いた。


「さて、そろそろ片付けを始めるか。レーナは大活躍で疲れただろう? 休憩所で休んでいて良いからな」


 そう言って私のことを気遣ってくれたので、それをありがたく受け取ることにする。


「ありがとう。では少し休ませてもらうわ」

「ああ、帰り道でバテないように、しっかりと休んでおくんだぞ」


 努めて明るく振る舞ってくれている様子のシュゼットに感謝しながら、騎士たちが大勢集まる場所に向かうシュゼットを笑顔で見送った。


 すると近くまで来ていたレジーヌとヴァネッサに気づいたので、二人に手を振る。二人はこちらに軽く頭を下げると、急足で私の下まで来てくれた。


「レーナ様、お怪我はございませんか」

「護衛として全くお役に立てず、申し訳ございません」


 二人は後悔と心配が滲んだ表情で、真っ先に頭を下げた。そんな二人の肩に私は慌てて手を置き、二人に顔を上げてもらう。


「あの状況では仕方がないわ。それに私が二人を置いて単独で行動したのだから、責められるべきは私よ」


 ルーちゃんに二人も一緒に飛ばしてもらう余裕なんて、全くなかったもんね……。

 だからといって二人に自力でついてこい! なんて不可能なことは求めるわけがないし、やっぱり悪いのは私だ。


 ただこれからも騎士団の遠征に参加するなら、こういう事態は起こるだろう。その度に二人が落ち込んでいたら可哀想だし……そう考えた私は、一つの提案を口にした。


「騎士団に参加している時は、三人とも同じ立場の一騎士ということにしましょう。この時ばかりは主従関係はなしよ」


 何気なく告げた言葉だったけど、二人には凄く重く受け止められたのか、なんだか雰囲気がどんよりし始める。


 言葉を間違えた? と思っていると、悔しそうな表情でヴァネッサが口を開いた。


「私たちでは頼りないということでしょうか……!」

「え? ち、違う! 全然違う!」


 すぐに否定すると、二人の重苦しい空気が少しだけ薄まる。


「戦場での護衛は難しいし、側に付くことが不可能なこともあるだろうから、二人が気負わないようにって……」

「いえ、その心配は必要ありません。私たちはレーナ様の護衛を外される方が、とても苦しいです」

「今回のようにどうしても実力が付いていかない場合は大変申し訳ございませんが、それ以外の場面では守らせていただけたら幸いです。そしてどんな場面でもお守りできるよう、鍛錬に励みます!」


 レジーヌのその決意に、ヴァネッサも真剣な瞳で同調した。なんか二人ともやる気になってるみたいだし……このままで良いのかな。


 そう思ってやる気十分な二人を眺めていると、ダスティンさんの方にもクレールさんが合流したみたいで、皆で休憩所へと向かうことになった。


 ダスティンさんは歩きながら周囲を見回して、しみじみと呟く。


「今回は出てくる魔物の数が多く、さらにはドラゴンという脅威も生まれたが、ゲートが早めに閉じたのは不幸中の幸いだったな」

「確かにそうですね……長い時は二日にも及ぶと聞いたことがあります。今回のゲートが閉じたのって、やっぱりドラゴンの討伐でしょうか」

「タイミング的にはピッタリだったな。関係があるのかを確定させるには、あと数回はドラゴンを倒してみなければ分からないが」


 うわ〜それは絶対に嫌だ。確定出来なくて良いから、もうドラゴンには現れてほしくないね。


 確かゲートには同じ種類がたくさん現れるタイプと、様々な種類が入り乱れるタイプがあるって話を聞いたけど、万が一同じ種類というのがドラゴンだった場合――


 怖すぎて想像もしたくない。


「ダスティン様も休憩所に向かわれるのですか?」


 恐怖心を紛らわせるためにも別の話題を口にすると、ダスティンさんはそれ以上ゲートの話を深掘りすることはなく、話を変えてくれた。


「……いや、私は少し魔物素材を見に行こう。欲しい物を確保しておきたいからな」


 その返答を聞いて、恐怖心はどこかに押しやられる。


 ダスティンさんって、本当にブレないよね……。


「私もご一緒にして良いですか?」

「別に構わないが、魔物素材を見たいのか?」

「……少しだけ興味があります」


 理由の半分以上は暇になると余計なことを考えそうだからなんだけど、魔物の山から貴重な素材を探し当てるのは少し楽しそうって気持ちもある。


「分かった。では行こう」


 そうして着いた魔物が積み上がっている場所で、ダスティンさんは嬉々として魔物の様子を検分し、欲しい素材を決めていった。


 そんな隣で私は、ちょっとだけ引きながらダスティンさんの様子を眺める。


「クレール、そちらの魔物をどかしてくれ」

「これですね。ではいきます。せーのっ」


 二人ともまだ温かさが残るだろう死んだ魔物に、抵抗感は全くないらしい。次々と魔物を確認して、その場で剥ぎ取れる素材は剥ぎ取っていく。


 しばらくしてダスティンさんが満足げな表情で、私がいる場所まで下がってきた。近くには丁寧に積み上げられた魔物素材の山がある。


「随分と大量ですね」

「ああ、これだけあれば研究が大幅に進められる」


 楽しげな笑顔でそう言ったダスティンさんは、ふとドラゴンに視線を向けた。


「ドラゴンの素材も欲しいな……」


 このセリフ、絶対に言うと思ってた。予想が当たったことに苦笑を浮かべていると、ダスティンさんが気になる言葉を発する。


「しかしまずは、魔力回復量の調査からか」

「魔力回復量ってなんですか?」


 気になって問いかけると、ダスティンさんは嫌がることなく教えてくれた。


「これは近年研究が活発になっている分野なのだが、魔物は死亡から一定時間が経過すると、少しずつ魔力を放出するようになる……と言われているんだ」

「魔物が魔力を?」


 確かに不思議な話じゃないのかな。魔物は体内に魔力を持つって話だし。


「ああ、実際に完全に魔力をなくした部屋に魔物の死骸を置いたところ、魔物の死骸なしよりも魔力の回復速度が早まったという研究結果がある。まだ詳細は分からないが、魔力を放出しているというのは事実だろう」


 そんな研究があるなら、ほぼ確実だね。魔力の回復速度が早まるのは良いことだけど……純粋に喜んで良いのか少し微妙な気持ちになってしまう。


 だって魔物にそんな効果があるってことは、ゲートが生まれる理由って、もしかしたら魔力の補充? とかかもしれないよね。


 なんかそう考えると、怖いというかなんというか……。


 それともゲートの出現には意味なんてなくて、魔力が増えるのは副次的な効果なのかな。


 私がぐるぐると考えてしまっていると、素材を抱えたダスティンさんに声をかけられた。


「レーナ、私はこの素材を持ち帰る準備をしてくるから、少し休んでいると良い」

「分かりました。そうします」


 私は今度こそ素直に頷き、休憩所に向かう。しかし頭の中では様々な考えが駆け巡り、全く休むことはできなかった。

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