第195話 補助魔法と護衛二人の活躍

 レジーヌ、ヴァネッサの迷いない返事を聞いてから、私はルーちゃんに頼んで、三人を同時に宙へと浮かべてもらった。

 そしてワイバーンがたくさん群れている、戦闘の最前線まで飛ばしてもらう。


 ルーちゃんの飛行魔法はやっぱり凄い性能で、三人ぐらいまでなら問題なく飛ばせるのだ。魔力の消費も、強力な攻撃魔法と比べたらかなり少ないことが分かっている。


「レジーヌ、ヴァネッサ、補助魔法をかけるよ!」

「「よろしくお願いします!」」


 空を飛びながら二人に声を掛けると、二人は揃って返事をしてくれた。それを聞いてから、私は必要な部分に補助魔法をかけていく。


 補助魔法や身体強化は何回も検証を重ねていて、そのおかげで強化したい部位ごとに細かく強化の程度を定めることができるようになった。

 例えば脚力だけを五パーセントアップさせるとか、腕力を二倍にするとか、調整は難しいけどさまざまなことが可能だ。


 しかし補助魔法をかけられた人は、普段の自分の能力との差異に躓き、最初は思うように体を動かすことができなくなる。その点二人は何度も補助魔法を試しているので、その心配はいらない。

 補助魔法をかけられた二人は、多分この国で一番と言っても過言ではない強さだと思う。


「ワイバーンを倒すというよりも、落とすことに集中してね!」


 空を飛ばなければ他の騎士が倒してくれるはずだと思ってそう伝えると、二人は腰に差してあった剣を抜いた。


「ルーちゃん、私だけワイバーンから少し離れた場所で止めてくれる? 二人は一番近くにいるワイバーンに向かってそのまま飛ばしてあげて」


 ルーちゃんに合図をして宙に止まった私は、すぐに二人の行き先へと目を凝らした。正直二人が空で戦う時に一番重要なのは、私からルーちゃんへの指示だ。


「ルーちゃん、土魔法で二人の足場をワイバーンの近くに作ったら、飛行魔法を切って」


 ワイバーンにかなり近づいたところでそう伝えると、二人の足元に小さな土の塊が発生し、それと同時に二人の体が宙に止まった……ように見えた。


 厳密には二人の体は重力によって地面に引っ張られているけど、土魔法の足場があることによって、落下を免れている。

 ちなみに土魔法の足場が宙に固定されているのは、魔力によるものだ。


 その足場を思いっきり蹴った二人は、ワイバーンに飛び込んでいき――


 翼の根本を思いっきり切り付けた。


 それによって一匹のワイバーンは、作戦通り地に落ちていく。


「ルーちゃん! 二人を飛行魔法で浮かべて、ワイバーンと足場の土は誰もいないところに落として!」


 私の叫びに答えてくれたルーちゃんによって、その場にブワッと風が吹き、レジーヌとヴァネッサはその風に僅かに煽られながらも問題なく宙に留まった。


 ワイバーンはゲートから少し外れたところに落下し、足場の土は視界にも入らない場所まで飛んでいったようだ。


 落下したワイバーンは翼を切られたからか怒りを露わにして暴れているけど、そんなワイバーンに騎士たちが次々と攻撃を仕掛けていく。

 飛べない手負いのワイバーンなら、問題なく倒せそうだね。


 それを確認したところで、またこちらに迫ってくる別のワイバーンに視線を向けた。


「二人とも! また来るよ!」

「はいっ!」


 それからは同じような方法で、ワイバーンを次々と地面に落としていった。


 初めての実戦だったけど、意外と訓練通りに動くことができて、レジーヌとヴァネッサとの連携は満点と言っても良いほどだと思う。


 でもこうして改めて実戦を経験すると、やっぱり私が剣を持って戦えると楽だよね……ルーちゃんも私自身が戦ってる方が、絶対にやりやすいと思う。


 やっぱりもっと鍛錬をしようかな。身体強化を自分では活かせないのもちょっと悔しいし。


 そんなことを考えながらワイバーンを落とし続け、最後の一匹も地に落とすことに成功した。


「二人とも戻るよ!」


 魔力をできる限り節約するために、討伐が終わったらすぐ隊列の後ろに戻る。するとそこには前線で討伐できなかったのだろう空飛ぶ魔物が数匹、魔法師たちを襲っていた。


 そんな魔物と一番前で相対しているのは、涼しい顔のダスティンさんだ。そしてその側には武器を持ったクレールさんがいる。


 やっぱりこの二人、かなりの実力者だよね……。


「レーナ、戻ったか」

「はい。こちらは大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。そこまで強い魔物ではないので、精霊魔法は使わずに倒しているため、少し手間取っているだけだ」

「そうだったのですね」


 魔法師たちの方を見てみると、確かに魔法の使い所はかなり見極めてるようだ。


 私もしばらく魔法の使用は控えようと安全な後ろに下がっていると、前線の方から一人の騎士が走ってくるのが見えた。

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