第183話 久しぶりの教会
オレリアとメロディとの楽しいお出かけも終わり、いつも通り学院で勉学に励む生活を送っていると……私の下にどうしても断りたい、憂鬱すぎる要望がきた。
どこから来たのかというと――教会だ。
その内容は創造神様の加護を得たのだから、その感謝を伝えるために教会にも顔を出し、神々に祈りを捧げるべきではないかというものだった。
教会の思惑は分からないけど、とりあえず訴え的には正当でお養父様も断りきれず、私は一度教会に顔を出すことになった。
「レーナ、断りきれずに申し訳ない」
現在の私は、オードラン公爵家のリューカ車にお養父様と共に乗り込み、貴族街にある教会へと向かっているところだ。
お養父様は仕事が忙しいのに時間を作ってくれて、私の教会訪問に同行してくれた。
「いえ、気になさらないでください」
この国で教会は確たる地位を築いてるし、断り続けるのが難しいのは分かる。今回のは別に無茶な要望でもないからね……。
でもあの捕まりそうになった時の恐怖心はまだ鮮明に覚えていて、少し怖いのも事実だ。
というかそもそも、なんで私を教会に招待したいんだろう。さすがにまた攫おうとしてるってことはないだろうから、創造神様の加護を得た私と縁を結びたいのかな。
でも前にあの教会の司教が起こしたことは知ってるだろうし、私が教会に好意を抱くことなんてないと分かるはずだけど。
そうなると、ただ会ってみたいだけとか……?
「そろそろ着くよ」
頭の中でぐるぐると考えていたら、お養父様の声が聞こえてきた。貴族街の教会だけあって近いね。
窓からチラッと教会を見てみると、平民街にあったものよりも一回り以上大きくて立派な作りの教会だ。そんな教会の前には祭司服を着た人たちがずらっと並んでいて、私は思わず目を逸らした。
……見なかったことにしたい。
「大司教様がいらっしゃるね」
お養父様が呟いた言葉に、思わずビクッと反応してしまう。まさかあのたくさんの人の中に、大司教様まで……大司教って司教よりも偉い人だよね? そんな人がわざわざ出迎えに出てくるとか、目立ちまくる気がする。
「ではレーナ、いこうか」
「……かしこまりました」
意を決してお養父様と共にリューカ車から降りると、すぐに大司教なのだろう豪華な衣を纏った人が、私のことをうっとり見つめるようにしながら跪いた。
するとそれに続き、他の司教や司祭なのだろう人たちも、一斉に私に対して跪く。
「ひっ……っ」
思わず悲鳴をあげそうになった。いや、さすがに怖すぎるって……私は色々と属性がついてはいるけど、本質は元日本人でスラム生まれの少女なのに。
「レーナ様、ご尊顔を拝する栄誉を賜り、恐悦至極にございます。私はこちらで大司教を務めさせていただいております、ティモテと申します」
ティモテさんと名乗った大司教様は、国王陛下に謁見してるのかという口調で私に接してきた。
「オードラン閣下もようこそお越しくださいました」
先に私に声をかけてからお養父様って順番は、多分意図的だよね。私はこうして持ち上げられても、全く嬉しくないんだけど。
それからはお養父様が上手く話を進めてくれて、私たちは目立ちすぎている教会前の広場から、建物の中に入ることができた。
案内された礼拝堂は、神々への祈りの儀式を受けたあの教会とほとんど同じ作りで、それをそのまま一回り以上大きくしたような感じだ。
「ぜひ神々に祈りを」
大司教様のその言葉に頷いて、私は大きな像が並ぶ前に向かった。そして静かに片膝をつく。
神々に対しては膝をつくのが、この国の礼儀だ。
――初めまして、レーナです。私はなぜか創造神様の加護をいただいたのですが、理由などはあるのでしょうか。また私に前世の記憶がある理由は……。
心の中でそんな問いかけをしてみるけど、特に神様の声が聞こえてきたりはしなかった。
まあ、普通はそうだよね。もしかしたらって頭を掠めていた可能性が、否定できたことは良かった。
「終わりました」
最後に日本人時代の癖もあり家族皆の健康を祈ってから立ち上がると、近くにいた大司教様は――なぜか泣いていた。
「こ、このような、神聖な場に立ち会えたこと……私の一生の誇りでございます!」
大司教様はそう言って、神にするのと同じように私に対して跪く。そして一通り祈ってから、今度は神々の方に祈り始めた。
なんか、ここまでされると恐怖しか感じない!
この人、私のこと人間じゃなくて神様だと思ってない? そんな感じが凄くするんだけど……神様だと思われるのって、デメリットが多い気がする。
過度な信仰って過激になっていくものだろうし。
「あ、あの、私はこれで……」
早く帰りたくてそう告げると、大司教様はその場に立ち上がり、そういえばと世間話でもするようににこやかな笑顔で言った。
「レーナ様にご迷惑をおかけし、神々に背く行為を行った司教については、天に還りましたのでご安心を」
……え。その司教って、あの私を捕まえようとした人だよね。天に還ったって言葉の意味は――死んだってこと?
そこまで考えたところで、身体中に悪寒が走った。
怖い、怖すぎる。あの私を捕まえようとした司教さんも怖かったけど、まだ分かりやすい行動だった。でもこの大司教様は得体がしれないというか、化け物でも相手にしてるような錯覚に陥る。
「な、何のことでしょうか……」
教会で捕まりそうになったことは公にしていないので、適当に誤魔化してお養父様を見上げた。するとお養父様が上手く貴族的な言い回しで、早々に帰ることを伝えてくれる。
お養父様がいてくれて本当に良かった……ありがとうございます!
それから私は最後まで大司教様たちの熱狂的な、底がしれない瞳に見つめられながら、教会を後にした。
「――お養父様、教会へはどの程度の頻度で訪れる必要があるのでしょうか」
リューカ車に乗ってやっと落ち着いたところでお養父様に問いかけると、お養父様は真剣な表情で考え込み、ゆっくりと口を開く。
「教会からの要望では毎週末とのことだったが、私の方で季節に一度程度で交渉しよう」
「お養父様、ありがとうございます!」
もうお養父様が神だ。大司教様もお養父様を信仰した方が良いと思う。
「私もできる限り同行できるように調整するから、あまり心配する必要はないだろう」
そう言って笑みを浮かべてくれたお養父様を見ていたら、まだ残っていた緊張感が解けていくのを感じた。
とりあえず帰ったら、好きなものを食べてのんびりする。そう決めたことで強張っていた体も緩み、それからは窓から見える景色を楽しみながら帰路に就いた。
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