第34話 「伊勢」、玄冥について推測する
湯気のうわりとした気配、人のさざめき、浮足立った記憶――この城崎という歴史の古い
「そういうものを感じるね。なんとなくだけど」
と「
黒いスーツをまとった「伊勢」の隣には、異風の男が一人ある。
両者は人型をしているが、
一方は
そして一方は、大陸よりもたらされた
二つの周りに人の気配はない。玄武こと
そも、人に神の姿形を視認する事はできない。これはまた鬼であっても同様である。
鬼神である
県道を直進し続ければ、やがて前方に山が見えてくる。末代山。有するは温泉寺。
「僕はね、昔から色々と推測する事がとても好きだったんだよね」
のんびりゆったり進みながら、「
「伊勢」は――愉快そうな声を出す。
「玄冥、君という神は、亀と蛇を象徴として描かれるだろう?」
(然り)
「
「そう。
すらすらと
「残り三座――
玄冥は
「さて、もう一方の蛇だ。蛇は龍とほぼ同一視されているね。インドで生まれた
ふわりと生温い風が、玄冥の鼻先を掠めた。
「伊勢」は反応もまたず続ける。
「さて、大陸の民話に戻ろう。この
ひたり、どこかで湿った音がした。
「玄冥。君は五行においては水を象徴する。自らの
ぴちょん、と湯の花がどこかにぶつかったような、そんな。
「――不老長寿と子孫繁栄。その両方を
玄冥はじっと静かに
「伊勢」の歩みがひたりと止まる。
その視線が、ひた、と玄冥のそれと結ばれる。
逃れるな、と。
「不老長寿は不死であり、これは繁殖の不用を意味する。対して子孫繁栄は個体の滅びと同義だ。先の命が滅び、そして次の命が受け継ぐ。僕はね、
(それは――)
「いいかい
「伊勢」が一歩、玄冥に近付いた。
「日本においては、
ざわり、と手触りの悪い風が、玄冥と「伊勢」の髪を巻き上げ通り過ぎて行った。
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