第10話 よし!ならば次はガチャだ

「吸血族については大体理解できた、提案について教えて欲しい」


「はいなの、母様はつよいので簡単にはやられないなの、簡単に死ぬのは父様なの」


「貴重な意見ありがとうございました、ではお引き取りを…」


「待ってなの!最後まで言わせてなの!」


 丁寧に画面へとお辞儀をするグン、ルリが画面のなかで慌てている。


「そんなことは百も承知だわい!もう少しマイルドに言ってくれ!」


「無理なの、事実なの、提案をサッサと言うなの、提案は魂ガチャを1回プールを1個にすることなの!」


「ん?なんでだ?2個あれば2人とも死んでも1回は生き残れるだろ?」


 腕を組み、ルリの意見を聞くも納得がいかないグン。メイはフフンと無い胸を張り偉そうにアドバイスをしてくる。


「今回だけは父様優先なの、このままだと本当に簡単に死んじゃうなの!なので魂ガチャを最低でも1回引く事をお勧めするなの!」


「あ~ジョブ狙いなんよ」


「ジョブ?職業?取ったところで専門知識なぞ持ってないぞ?」


「それなの!魂ガチャでGETできる中に知識あがるんよ!」


「いや、もっとわからんぞ。本でも読めっていうのか?残り3日で?」


 理解できていないのはグンだけ、メイはルリのその提案に頷き、グンに進めて来る。


「ルリの提案は素晴らしいんよ、1回引いてみるんよ、やってみればわかるんよ!」


「いや、ここはプール一択だろ!残機大事!」


「い・い・か・ら・ひ・く・ん・よ・!」


「母様、父様の手を強引にそこに当てるんよ!ガチャが発動するんよ!」


 床下から何かのボタンが装置台と共に現れる、ボタンは激しく点滅し、台の背後には【welcome】の文字がカラフルに光っている。


「いや、昭和のパチンコ屋か何かか!?今どきそんな店見たこと無いわ!!」


「はいはいなんよ、これ押すんよ。ガチャはグンしか押せないんよ」


「何でそんな設定になってるんだ?メイでもいいだろ?」


「あ、母様が初日に設定してたなの、解除は不可なの」


「えーっと…てへ?なんよ」


「可愛いけど、てへ?じゃないんだよな~可愛いけど」


 強引にグンの右手を掴み、ボタンまで引っ張るメイ。ルリは砂糖の海で背泳ぎを始めていた。


「もう、それなら一緒に押すんよ、一回だけなんよ、ちょっとだけなんよ」


「いかがわしい言い方するんじゃありません!ムラムラします!」


 ルリは画面の中でバタフライを開始した。皮肉を込めた訳では無い!決してベット上の水泳ではない。


「じゃあ、行くぞ」


「うん、なんよ♡」


 画面の中、上空から降り注ぐ砂糖で出来た滝、ルリは滝登りチャレンジに挑む!


 ボタンを押すと頭上の空間に罅が入る、ゆっくりと歪を広げていく。暗く先の見えない歪の先から光が…!


 一瞬七色に輝き、2人の目を覆う。光が収まり目が慣れて来る、辺りを見回し変化を探す2人。

 周りに変化はなく、ふと足元へと視線を落とす。

 

 カプセルが転がっていた、カラフルな虹色のカプセル。と言えば聞こえは良さそうであるが、実際は百円ガチャでよく見るアレと同じ、期待感は配色のみ、拾い上げたグンは無言でそれを見つめる。


「なあ、これでホントに良かったのか?」


 グンの目には、ぱかっと開くだけのカプセルにしか見えない。


「だ、大丈夫なんよ「なのなの」…」


 疑問は尽きないが、2人が保証しているのだ。


「開けるしかなな、よし!いってみよう!」


 力を込め、一気に開くと再び眩い光を放つ!だが3人は予想していた!絶対光ると!

 グンとメイはサングラスを取り出し、素早く掛けていた。どこで用意し、何処から取り出したのか、とにかく光を遮る事に成功する。

 メイはアバターにパーティーで使うような丸い縁取りのサングラス、左右淵の横からから針金?のようなものが伸びその先で蝶が揺れていた。


「想像の範囲内だな」


「そうなんよ、捻りが無いんよ」


「所詮単純作業しか出しない下等な存在なの」


 言いたい放題である。だが、次の出来事は想像をはるかに超えていた。驚愕する3人が見た物それは!?


『ハァイ!オイヤーでーす。ご利用ありがとぉぉう!』


 目の前に突然現れた画面、画面の中、ポージングを決め、バルクを決める褐色の角刈りのマッチョ漢。


「っく、完敗だ…想像力が足りなかった」


 思わずその場に片膝をつくグン、そんなグンの方に優しく手を置くメイ。


「気にすること無いんよ、角刈り褐色マッチョなんて想像できないんよ」


『今回ご紹介する内容はぁぁぁぁあ!コ・チ・ラ(ババーン♪)戦闘スキルなんだYO、YO』


 二人が悲壮な雰囲気でそんなやり取りをしている横、画面は自動再生で進んでく。


『ジョブが欲しかったぁあ??NON,NON それはA・SA・HA・KA・DAZE。いいかいよく聞くんだBOY、ん?OJISANに興味があるって?それはまたにしようNE』


「ルリ、ちょっとこの画面何とかならないか?破壊したり壊したり粉砕したりできないかな…」


「そのうち選択画面が出て来るはずなの、諦めて放置するなの」


『今回の当たりを紹介するYO、なんと、なんとなんとなんと、武だぁぁああ!』


 でかでかと画面いっぱいつ映し出される【武】の文字。ポージングでそれを強調する漢。


「なんだこれ、武って武器のことなのか?」


「ん~なんなんよ、もっと分かり易く言って欲しいよ」


『おっとお?まだ説明途中だZE、話はさ・い・ご・ま・でぇぇぇえ、聞いて!(ポーズ)」


「ルリ、ハッキング出来ないか?ささっと選択画面でるように変更してくれ」


「さっきからやってるなの、まったくアクセスできないなの」


 すでにルリは実行していたが、どうやら無理そうだ。選択画面が出るまでメイとお茶でもしよう。とルリにお願いし、テーブルと椅子を用意しておいてもらう。


 一度、キッチンへと戻り、ティーセットを用意し、リビングで一息入れる二人。

 再び訓練施設入口に戻ってくれば、説明は終了し選択ボタンが現れていた。


 もっともその選択ボタンの位置には、悪意しか感じられない。


 白い歯を見せ己の股間部分を両手で指さす漢。そこにボタンが有るのだ。


「ルーリー、簡潔に説明頼むわー」


「武は武術関連の意味なの、インストールすると達人になれるなの」


「ほう、それは凄いじゃないか!」


「うーん、微妙なの、知識として動きは覚えられても肉体が付いて来ないなの、動ける身体を作らないと行けないなの」


「ジョブだとどうなるんだ?」


「肉体向上と基礎知識が同時に手に入るなの、訓練すればレベルも上がるなの、理想はジョブを取る事だったなの」


 画面の中、腕を組み悩ましげに言ってくるルリ。


「いや、考え様だろ。いきなり達人級になれるなら、次のゲームでも何かしら出来そうだ。肉体はその内何とかなるだろ」


「考えが甘いんよ、イメージと動きの乖離は返って危険なんよ」


 用意された椅子に腰掛け、メイがそう言ってくる。

 メイにそう言われると悩んでしまうグン。


「まずは何が有るのか見てみるんよ、結論はそれからでも遅く無いんよ」


「そうだな、そうしようか」


 画面に向き直ると、テカテカのオッサンが股間を指差している。


 一瞬躊躇うグンだが覚悟を決め、ボタンに触れる。


『Oh!』


 怪しげな何かが聞こえたが、華麗にスルー。画面は股間のアップに切り替わる。

 この嫌がらせは効果が抜群だ、グンは握った拳で画面を殴りつけるが、その拳は画面を透過していまう。


「くっ!どうなってやがる?」


「気持ちを逆撫でする仕組みなんよ、気にしたら負けなんよ」


 この場に戻る際、一緒に持ってきたティーセットで紅茶を飲みながらそう答えるメイ。


「もう気にしない、俺の目には文字しか見えない、文字しか見えない」


 言い聞かせるように呟きながら画面を確認する。

 画面には色々な格闘が表示されていた。


「凄いな、空手、合気道、柔道、ボクシング、ムエタイ、ん?スクロールがあるな」


 そう言いながら指を上にスワイプするグン。


『Oh!Yes!』


「何も聞こえない、何も聞こえない、文字しか見えない、文字しか見えない」


「グン…」


 居た堪れない表情で口元に手を当て、目線を逸らすメイ。

 ルリはとても冷めた目をしている。


「カポエラに酔拳、太極拳、何だこれ?まったく聞いた事無いものまであるな」


 種類が多すぎる、名前の横に詳細ボタンがあるのだが、嫌な予感しかしない。


(空手で様子をみるか…)


 空手の表示横の詳細を押してみる。


『お?空手についてかい?いいとも【戻る】


 サムズアップした漢が表示されると、グンは迷わず戻るボタンを押したのだった。


「ん〜、勿体無いけど諦めるのも有りなんよ」


「なのなの、無理に決めなくて良いなの」


 画面をスクロールさせ、真剣に悩むグン。自分が知っていて、戦場でも使える、そんな都合の良い何か。


 結局、一番下まで確認するも、半分以上聞いた事すら無いも武術等であった。


「覚悟を決めて、詳細を見るしかないのか…」


「父様…」


「なんだい?」


「ルリも今気が付いたなの、その画面横にも動くなの、ワザと解りにくくされてるなの」


「!!!」


 震える指でゆっくりと横にスワイプするグン。


 そこには…。




 [詳細(文字表示)]





 グンは神とルリに感謝した。



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