第23回「車」:つまりは接客のプロ

「お写真撮りましょうか」



 もうすぐ浅草寺が見えてくるという地点で突然車夫の青年がそう言ってきた。

 私は即答できずに俯く。


 初対面ながら先程まで談笑できるほど打ち解けていた筈の私の沈黙に、彼はただゆっくりと人力車を停めた。


 象鼻はまだ地面に付けない。

 人力車の姿勢を走行時の状態に保ったまま、車夫の彼は支木を腰に当てて私の方へと振り返った。


 人懐っこい綺麗な瞳が私を優しく見つめてくる。申し訳なるほど。



「……写真が苦手でして」



 自分の写真写りの悪さを白状すると、彼は実にあっけらかんと笑って見せた。



「大丈夫です。僕、写真もプロなんで」



 結局彼に押し切られる形で撮った写真には、一人でも朗らかに笑う私が確かに写っていた。




【了】

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X(Twitter)300字小説集:毎月300字小説企画参加作品 伊古野わらび @ico_0712

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